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作戦会議

 村田探偵社のテーブルの上に二枚の新聞が並べられていた。それぞれの新聞には「新井貴之氏死亡」「資産家夫殺人事件」この二つの見出しが大きな文字で掲載されていた。

「この二つの事件加えて、鈴木貴子さんの夫と息子の自動車事故、そして、修司さんのお兄さんの刺殺事件。この四つの事件は同一の犯罪グループの仕業と考えてまず間違いないでしょう」村田さんははっきりとした口調で話し始めた。

 スーパーにとって忙しい土日は避け、私は月曜日に村田探偵社を訪れた。

「現状、我々に調べる事の出来る事といったら何だと思いますか?」村田さんは俺に聞いてきた。

「そうですね。新井貴之氏の事件は、今、警察が捜査中でしょうから我々に出る幕はないですよね。それ以外に出来る事と言ったら、私の兄貴がやっていたマルチビジネスの幹部の素性を調べるとか、吉谷響子さんの夫、山崎三郎氏の仕事関係を調べる、後は鈴木貴子さんのご主人と息子さんをひき殺して服役中の男に面会に行く。今の我々にできる事といったらそんなところじゃないですか」

 「良いじゃないですか、いいとこ突いてますよ。意外と修司さんには探偵の素質があるのかもしれませんね」村田さんは俺を茶化すように笑いながら言った。

「やめてくださいよ、これでも真面目に考えてるんですから」

 そう言いつつも私は悪い気はしなかった。この事件が終わったら、村田さんの相棒にでもしてもらおうかな―そんな考えが頭をよぎった。

「ではまず、鈴木貴子さんの件から始めましょう。一番やりやすそうですからね。知りたいのは加害者の現況、そして面会は可能なのかどうか、まず、その二つから調べてみます。この件は私が弁護士と相談しながら調べておきます。修司さんはお兄さんのマルチの方を調べてみて下さい。お兄さんの部屋から持ち帰った資料を調べてみれば、分かるかもしれません。」

「はい、やってみます」

 村田さんの的確な指示に改めて村田さんは本物の探偵なのだと認識させられた。村田探偵社を後にし、アパートに戻った私は兄貴のタワーマンションから宅配便で送っておいた荷物を全てひっくり返してみた。部屋中が書類の山となってしまった。その中からマルチに関する資料、名簿、マニュアル、その他の様々な書類を拾い集めた。その中から組織図らしきものが出てきた。下位に並んでいる名前を見ると今どきのキラキラとした名前ばかりなのでこいつらはただの実働部隊であろうことは容易に想像ができた。しかし、兄貴のすぐ下にはどっしりとした昭和の名前が五人くらい並んでいた。おそらく、こいつらがマルチの指南役なのだろう。

 そもそも、あの兄貴に販促マニュアルの作成、カモになりそうな人間達の名簿の入手、実働部隊の募集、さらにはもっともらしく見える商品の仕入れ、そんな事ができる訳がないのだ。兄貴はただのスケープゴートに過ぎないのだ。この組織図を見る人が見れば一目瞭然だろう。

 しばらく他の書類にも目を通していると、アパートのドアが開く音がして母が帰ってきた。部屋中、書類だらけの状況に言い訳のしようも無かった。

「もしかして、またやってるの」母は怒っていた。

「いやこれは違うんだ。この前、依頼した探偵社の人に頼まれて調べものをしてただけなんだ」

 明らかに嘘と分かる俺の言い訳に呆れたのか、母はそれ以上の事を聞こうとはしなかった。

 静かな夕食を終えるとタイミングよく私の携帯が鳴った。村田さんからだった。私は自分の部屋に入り話を聞いた。

「鈴木貴子さんの件については大体分かりました」さすがにプロの仕事は速い。

「加害者の氏名、現在の状況、それら全てを鈴木貴子さんが知っていました。加害者の氏名は清水安男、現在、府中刑務所に服役中、刑期は四年四カ月」

「えっ、二人の命を奪ってたったの四年四カ月で出てこられるんですか?」俺は驚きと同時にこの国の法律の甘さに呆れてしまった。

「そうなんですよ、あまりにも軽すぎる判決だと思うでしょ。でもこれが現実なんです。ドライバーは自動車運転処罰法という法律によって厚く守られているんです」

 この何処にもぶつけようのない怒りはどうすればいいのだろう。夫と息子を同時に殺された鈴木貴子さんはこの判決をどんな気持ちで聞いたのだろう。私はこんな理不尽な世の中を生きているのかと思うと果てしない虚しさが胸に広がった。

つづく

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