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断念

 私と村田さんを乗せた東北新幹線は定刻通り午前十一時十九分に福島駅に到着した。駅のホームで私は村田さんに告げた。

「村田さん、新幹線の中でずっと考えてました。確かに村田さんの言う通り、ここから先の調査は危険なのかもしれません。それにこれ以上調べたところで、その先私に何か出来るのか、と言ったらそれもまた疑問ですし。なにより、母にこれ以上心配をかけたくないんです。ですから、ここでこの調査は終了したいと思います。」

「そうですか、賢明な判断だと思います」村田さんはほっとした様子だった。

 私たち二人は駅を出て、タクシーで村田探偵社に向かった。事務所で精算を済ませると村田さんが言った。

「じゃあこれでお別れですね」

「何かそれが一番寂しいような気もしますね。今回、二人で探偵旅行が出来て楽しかったです。それじゃ」そう言って俺は村田探偵社を後にした。コインパーキングからおんぼろ自動車を出して自宅へ戻った。まだ母は仕事から帰ってきていなかった。スーパーに電話して店長に本日の事を謝罪し、明日は必ず出勤しますと告げた。

 まずは母さんに謝らなくちゃな、お詫びのしるしに今日は俺が夕飯を作るか、そんな事を思いながら夕飯の準備を始めようとした時、母が仕事から帰ってきた。

「母さん、心配かけてごめん、今回の調査ですっきりしたよ。これでもう過去を振り返ることはやめる」きっぱりと宣言した。

「そうだよ、それが一番良いんだよ」母はほっとした様子だった。

 夕食が出来上がり、二人で食べ始めた時、テレビでNHKの七時のニュースが始まった。なにやらニュースキャスターは興奮した様子だった。

「速報です。新井貴之氏逮捕です。ビッグビジネス社の新井貴之氏が証券取引法違反で逮捕されました」

「えっ」思わず声が出た。あの日本の頂点に立った男が逮捕?我が目を疑った。

「少し前から騒がれてたもんね、株価も連日のストップ安だったんでしょう」さすがに母もこのニュースには興味があるようだった。

 ニュースキャスターは速報を続けた。

「時代の寵児ともてはやされた新井貴之氏逮捕です。あっ、今ビッグビジネス社の本社前に新井貴之氏が姿を現しました。カメラに向かって深々と頭を下げています。神妙な面持ちです。」

「へー、頂点まで上り詰めた男が真っ逆さまに転落かー」自分の口から出た言葉に、はっとした。まさか、これも黒い玉が関係してるわけじゃないよな。

 テレビは速報を続けている。

「スタジオには経済アナリストの向井さんに来ていただいております。この逮捕を受けビッグビジネス社の株はこれからどうなってしまうのでしょうか。」

「ええ、逮捕間近という情報もあり連日のストップ安でしたからね。今後、上場廃止は免れないでしょうね」

「という事はビッグビジネス社の株は紙くず同然という事でしょうか?」

「そういう事です。ビッグビジネス社に大きく投資していた投資家のダメージは計り知れないものがあるでしょうね」

「そうですか。今後の新井貴之氏の動向が注目されます」

「スタジオ、スタジオ、大変です。たった今、新井貴之氏が刺されました。」突然、レポーターが絶叫した。 顔から血の気が引いていくのが分かった。やはり関係しているんだ。

「暴漢はすぐに取り押さえられましたが、新井貴之氏は数か所刺された模様です。繰り返します、只今、ビッグビジネス本社前で社長の新井貴之氏が暴漢によって複数個所刺された模様です。」レポーターは実況を続けている。母と私は食事を忘れてテレビ画面を見つめていた。

つづく

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