キャバ嬢の悲劇(3)
「山崎さんって、仕事は何をやってたんですか」村田さんは質問を続けた。
「うーん、よく分かんないんだよね、金貸しでもやってたんじゃないかな」
この人は結婚する相手の仕事さえ知らないで結婚したのか―この世界の人たちの思考は私の常識の範疇を完全に超えていた。
「何か思い当たる節でもあったんですか?」それでも村田さんは冷静に尋ねた。
「山崎さんが誰かと電話で話してる時、いくら必要だ、とか、とっくに期限は過ぎてるんだぞ、とか、それっぽい事を言ってたことがあって」
闇金―私の頭の中にはすぐにその言葉が思い浮かんだ。
「だけど、山崎さん、籍を入れてから一か月もしないうちに死んじゃうんだもん。それからが大変だったの。毎日警察に呼び出されて、結婚の実態はあったのか、とか、財産目当てだろう、とか、散々いじめられて」響子さんは詳しく説明を続けた。
「死因は何ですか?」
「溺死、湯船に沈んでたの」
「それだけだったら事故で済んだんだけど、検死の結果、山崎さんの体内から睡眠薬の成分が検出されちゃって」
「それであなたに容疑がかけられた訳ですか」
「私、本当に何もやってないのに」
響子さんの話ぶりからは、彼女が嘘をついているとは到底思えなかった。それに、これだけの良い条件が揃っているのだ、響子さんが山崎を殺す理由などないだろう。
「山崎さんは―」村田さんが何かを言いかけた時、警察官が話を遮るように言った。
「面会時間終了です」
響子さんは警察官に促され立ち上がった。その時「ねえ、何か分かったら絶対に教えてよね」そう言い残すと響子さんは面会室の外へ連れ出された。響子さんのいない面会室には、しばしの静寂が訪れた。響子さんとの面会時間はとても長く感じられたが、時刻はまだ九時二十分だった。とにかくこれで今回の予定は全て終了したわけだ。
我々は駅で立ち食いそばを食べ、午前十時十三分の大宮発の東北新幹線へ乗り込んだ。私と村田さんは隣り合わせの席に並んで座った。
「村田さん、この二つの事件どう思います?」少し列車が走り出してから私は村田さんに話を切り出した。
「ここまで一致点が多いとなると、もはや偶然では済まされませんね。それに、どちらのケースも話がうまく出来過ぎてる。二人の願いがそのまま現実になってるじゃないですか」村田さんは少し語気を強めて言った。
「という事はやはり私の兄も―」
「ええ、間違いなく同じ犯人の仕業でしょうね」
「ただし、問題はここからです。本当にこれ以上、この件を調べるつもりですか?昨日も言った通り、相手は相当やばい奴らですよ」
「奴ら?」確かに村田さんは奴らと複数形で言った。
「そうです。これは一人の犯行なんかじゃありません。それに、マルチ商法に闇金、そんなところにまで影響力を持つかなり力のある人間たちの犯行です」
私は絶句した。まさかそんなに大きな犯罪グループが絡んでいるとは思ってもみなかった。
「でも、一体誰がこんな事を?それに何が目的なんですか?不可解すぎますよ」
「分かりません。というより知らない方が良いのかもしれませんよ」村田さんは意味深な言い方をした。
「とにかく家に帰ったらよく考えて下さい。これ以上の詮索は危険です。やめるなら今のうちですよ」
村田さんの言葉を聞いて、私はどうすべきなのか全く分からなくなっていた。
その後、福島駅に着くまで二人は無言で列車に乗っていた。私は窓の外の景色を眺めながら、この二日間の出来事を冷静に振り返ろうとしていた。
つづく




