キャバ嬢の悲劇(1)
貴子さんはすんなりと私に黒水晶を預けてくれた。しかし、別れ際に「くれぐれも気を付けて下さい」と意味深な言葉を言っていた。
次の情報提供者とは埼玉の大宮で夕方五時に会う約束だ。貴子の家を出たのが昼の一時。約束の時間にはかなりの余裕があった。私達は駅前のラーメン屋で昼食を済ませ、その後、近くのコーヒーショップで一服することにした。ボックス席に座った我々は貴子さんから預かった黒い玉とカードをテーブルの上に置いた。
「やっぱりこの中にも監視カメラと盗聴器が仕込まれているんでしょうね」
私は村田さんに尋ねたが、村田さんは私の質問には答えずに逆に質問してきた。
「修司さん、本当にこの黒い玉の真相を突き止めるつもりですか?お兄さんの件にしても、貴子さんの件にしても、もし誰かが仕組んだ事だとしたら、そいつは相当危ない奴ですよ。大丈夫ですか?」
さっき私が貴子さんに言った事が気になっているのだろう。
「もし一時の感情であるならば、もっとよく考えてみて下さい」
「心配かけて申し訳ないですね。とりあえず大宮の人の話を聞いてからよく考えてみます」
「約束してくださいね、一時の感情では絶対に突っ走らないと」
やっぱり村田さんはプロの探偵なのだと改めて感じた。プロというものは危険を第一に考えるものだという事を教えられた気がした。
成城から大宮までは電車で約一時間半の距離だ。三時に出発すれば約束の時間には充分に間に合うはずだ。予定通り我々は三時にコーヒーショップを後にして大宮へ向かった。大宮駅に到着したのが夕方の四時四十分。ちょうどいい時間だ。
情報を提供してくれる娘のハンドルネームは美咲。美咲の指定してきた場所は大宮駅から徒歩五分くらいのところにある居酒屋だった。居酒屋には約束の十分前に到着したので予定通りだと思った。が、なんと開店時間は夕方の五時だった。おっさん二人で居酒屋が開くのを待つ羽目になってしまった。まだほとんどのサラリーマンが働いている時間に居酒屋の前でスーツ姿のおっさん二人が居酒屋の開店を待っている姿はかなり滑稽に見えることだろう。
「ごめんねー」おっさん二人にいきなり若い女性が声を掛けてきた。「まだ開店してないんだね」約束の娘だとすぐに分かった。まあ、これで会える会えないという心配はなくなったのは不幸中の幸いといったところか。
ぴったり五時に居酒屋は店を開けた。我々三人は、込み入った話をするのに最適な一番奥のボックス席を陣取った。席に着くと美咲は早速賞金の話をしてきた。
「賞金五万円くれるんでしょ、それいらないからさ、この後、同伴という事で私の勤めてるキャバクラに来てくんない」
あまりにも意外な提案に私も村田さんも口をあんぐりと開けてしまった。そして二人で笑った。
「修司さんどうします?私は別に大丈夫ですけど」
そうだ、私には明日の仕事がある。しかし「一緒に行きましょうか」つい勢いで言ってしまった。すぐに店長に電話を入れたら渋々ながら休ませてくれた。
「これで大丈夫です」
「本当ー、マジ助かる、同伴のノルマが結構きつくてさ」こんなに明るく言われてしまったら憎めないどころか可愛くさえ思ってしまう。
生ビールがジョッキで運ばれてきた。美咲は「では改めて乾杯ー」と言ってグビグビと美味そうに飲んだ。話し出すと、美咲という名前はハンドルネームではなくて源氏名であることが判明した。村田さんが名刺を渡すとやはりミホという主婦と同じ反応をした。
「へー、探偵さんて本当に探偵なんだ。私、探偵やってる人と初めて会ったよ。でさ、詳しい話は店に行ってからでもいいかな」と美咲は言った。
美咲の勤めるキャバクラの開店が六時だという事なので居酒屋で一時間ばかり飲み食いしてから店を出た。キャバクラに入ると美咲は「着替えてくるから少し待ってて」と言い残して控室に行ってしまった。通されたテーブルでつなぎの女の子と他愛もない話をしていると十分くらいで美咲がテーブルにやってきた。ドレスに着替えた美咲は綺麗だった。美咲はテーブルに着くと例の話をすぐに始めた。
「例の大金を掴んだ途端に不運に見舞われたっていう娘もここのキャバ嬢だったんだよね。その娘はレイラって名前なんだけど。この店のお客さんと結婚しちゃったんだよ。すっごい年の差婚。金持ってたんだろうね。だけど、結婚してすぐに旦那さんが死んじゃって、レイラさんに保険金やら遺産やらが転がり込んできたの」
やはりそのレイラという娘も簡単に大金を得たのだ。
「そしたら、やっぱ怪しかったんじゃない、速攻で逮捕されちゃって。今、大宮警察署の留置場にいるよ」
美咲が教えてくれた話は、平凡な私には想像もつかないようなすごい話だった。
つづく




