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主婦の絶望(1)

 私は村田さんと一緒にその人たちの話を聞く事にした。一件は東京、もう一件は埼玉だった。当然、仕事は休まなければならない。今回ばかりは母にもスーパーにも正直に話して休みをもらう事にした。スーパーの店長はあっさり了解してくれたが、母は嫌がっていた。

「信一の事はもういいじゃない、過去をほじくり返したって、どうなるものでもないでしょ」

「ごめん、でもどうしても兄貴に何があったのか知りたいんだ」

 それ以来、母とはしばらく口をきかなかった。

 翌日、朝一番の東北新幹線で東京に向かった。車内では村田さんと少し打ち合わせをしておいた。主な内容は二つ、話の主導権は村田さんが握るという事、そしてもう一つは黒い玉を見せた時にどんな反応をするのかを絶対に見逃さない、というものだった。

 一人目の待ち合わせ相手は主婦だった。名前はミホ、もちろん偽名だ。約束の時間は午前十時、場所は千歳船橋という福島県の人間にとっては聞きなじみのない駅だった。その駅前にある有名なコーヒーチェーン店が待ち合わせ場所に指定された。 

 土地勘の全くない我々は早めにお店に入りコーヒーを飲みながら相手の女性を待った。十時ぴったりの時間に主婦らしき女性が店内に入って来て、真っすぐ我々の方に向かって来た。村田さんはスーツ姿の二人組とだけ知らせていたらしい。確かに店内には他にスーツ姿の二人組はいなかった。女性は躊躇することなく村田さんに向かって尋ねた。

「探偵さんですか?」ドキッとした。よりにもよって村田さんはハンドルネームを探偵にしていたのだ。

「はい、ミホさんですね、お待ちしていました」

「ここでは話せないのでちょっと出ましょうか?」ミホと名乗る女性は見知らぬ相手との待ち合わせに慣れているように思えた。不倫でもしてるのかなー一瞬、余計な事が頭をよぎった。

 女性の後をついていくと、歩いてすぐ近くにあるカラオケボックスに入った。個室に三人で入り、飲み物が運ばれてきたところで女性はすぐに本題に入った。村田さんは名刺を渡した。

「へー、本当に探偵さんなんだ。あのー、先に確認なんですけど、本当に五万円頂けるんですか?」賞金の力は絶大だった。

「ええ、話が事実であることを確認できたら間違いなくお支払いいたします。」

「分かりました。それではお話し致します。」そう言うと女性はメモを渡してきた。メモには氏名と住所が記されていた。氏名は鈴木貴子となっていた。

「実は私、成城に住んでいるんです。」成城といえばここから二つ先の駅だ。この女性も一応人目を気にして、少し離れた駅を指定してきたのだろう。

「私はそのメモに書いた女性の近所に住んでいます。近所では結構有名な話なんですけど、先日、その女性は旦那さんと息子さんを交通事故でいっぺんに亡くして、かなりの保険金を受け取ったらしいんです。ただその女性はあまりのショックに家に引きこもってしまって、最近、その女性の姿を全然見かけなくなってしまったんですよね」

「なるほどー、確かに大金と不幸が同時に訪れていますね」村田さんは俺に目配せをした。良い情報だと思ったのだろう。

「じゃあ、もし話が事実だと確認できたらここにお金を振り込んでください」女性は用意周到に振込先をメモした紙を渡してきた。

「じゃあ私先に出ますので」そう言うと女性はそそくさと帰ってしまった。

 我々も少し遅れて会計を済ませ、カラオケボックスをあとにした。外は晴れていて眩しかった。時間はまだ昼前。今日中に大宮の人間とも会っておきたかったので、私達は早速メモの住所に向かう事にした。

 成城学園前駅に到着した。なるほどここが高級住宅街として名高い成城かと少しは思ったが、正直なところ今の私達にとってはどうでもいい事だった。

 メモの住所を見つけ出すと村田さんは時間を惜しむように躊躇なく呼び鈴を鳴らした、が応答はなかった。しかし、その時、この家のカーテンがわずかに動いたところを村田さんは見逃さなかった。

「中にいますね。」そう言うと、村田さんは門扉を開けて、今度は直接家の玄関ドアを手で叩いた。

「こんにちわー、すみませーん」反応はないが村田さんは構わずドアを叩き続けた。これでは、近所の人に怪しまれてしまう、そう心配した時、玄関のドアが開いて鈴木貴子らしき女性が小声で言った。

「やめてください。ご近所に迷惑でしょ。」彼女も近所の目を気にしているようだった。

「すみません、私こういうものなんですが」村田さんはその女性に名刺を渡した。

「探偵の方が何のご用ですか」女性は不審そうに我々二人を見た。

「実はこれの事をご存じないかと思いまして」そう言うと村田さんはジャケットのポケットから黒い玉を少しだけ覗かせた。

 女性はかなり動揺した様子だった。知っている―注意深く女性の表情を見ていた私にはすぐに分かった。

「中にお入りください」そう言うとその女性は俺たちを家の中に入れてくれた。

つづく

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