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仕掛け

 黒い水晶玉の掲示板は相変わらず賑わっていた。しかし改めて見てもやはり広告のような投稿ばかりだった。

「兄貴の持っていた黒い玉はこの掲示板に出てくる黒水晶のような気がするんですよね」

 村田さんは画面を食い入るように見た後、しばらく考え込んでしまった。

「やっぱりこんなのただのヤラセの広告に過ぎないですかね。」黙り込んでしまった村田さんに私の方から話しかけてみた。

「いや、手掛かりがこれしかないのなら、少し仕掛けてみましょうか」

「仕掛ける?」

「ええ、仕掛けにも色々あるのですが、いくつかやってみます。何か動きがあったら連絡をしますので、少し時間をいただけますか?」

「もちろんです、それじゃ、この件は引き受けてもらえるんですか?」

「はい、正式にお引き受けいたしましょう。それに浮気調査にも少し飽きてきたし、たまにはこんな本格的な案件も手掛けたかったところなんですよ」

 村田さんの最後の言葉には少し不安を覚えたが、どうせ自分では何もできないのだから全てお任せする事にした。手付金の十万円を渡して私は村田探偵社を後にした。

 アパートに着いた時には夜の八時を過ぎていた。少し長い時間つぶしになってしまった。母は既に夕飯を済ませていた。

「遅かったね、先に食べちゃったよ」

「ごめん、つまらない用事を頼まれて遅くなっちゃたよ」見え透いた嘘だったが母はそれ以上、何も聞いて来なかった。

 何かを待っている時間は長く感じるものだ。どんな報告をしてくれるのか俺は待ちきれなかった。五日後、ようやく私の携帯が鳴った。

「村田探偵社の村田です。お待たせしちゃいましたね」

「はい、待ってました」

「ちょっと込み入った話になるので、出来れば事務所まで来てもらいたいのですが」

「はい、仕事が終わった後でもよろしければ大丈夫です。お伺いできるのは八時位になっちゃいますけど」

「それで結構ですよ、それじゃ、八時に事務所でお待ちしております」

 そう約束をして電話を切った。

 夜七時になった、私は仕事を終えると母に遅くなると電話で伝え、急いで村田探偵社に向かった。村田探偵社に着いたのは八時より少し前だった。

「こんばんはー」私は少し大き目の声で挨拶をしながら、事務所のドアを開けた。

「お待ちしてました、意外と早く着きましたね」村田さんは窓際に置いてあるスチールデスクの奥で立ち上がった。

「ええ、報告を聞くのが待ちきれなくて少し飛ばして来ちゃいました」

「はははは、まあ落ち着いてお茶でも飲んでください」

 村田さんはこの前と同じように濃い茶色のソファに私を座らせお茶を出してくれた。

「えー、早速、報告からさせていただきます。まず、お兄さんに黒い玉を送った人物はまだ特定できていません。ですから当然、黒い玉が何の目的で作られたものなのかも分かりません」

 拍子抜けだった。私の依頼した事は何一つ解明できていないじゃないか、何の為に呼び出したんだよ―そんな私の心の声が聞こえたのか村田さんは話を続けた。

「ただし、ここまでは予想通りです。私は最初から突破口はあの黒い水晶玉の掲示板にあると思っていました」村田さんは少し自信あり気に言った。

「私はまずこのサイトに修司さんのお兄さんの事を書き込みました。結末まで全てです。お兄さんが大金を手に入れた事、しかしその後、刺されて死んでしまった事まで全てをです」

 私は自然と前のめりになって村田さんの話に聞き入っていた。

「それで?」

「私の書き込みは一時間も経たないうちにあっという間に削除されてしまいました。このサイトの運営者はネガティブな内容はすぐに削除するようですね」

 さすがにプロの探偵は目の付け所が違う。やり方も心得ている。すっかり感心してしまった私をよそに、村田さんはさらに話を続けた。

「次に、他の掲示板に募集をかけました。―突然大金を得て、その後不運に見舞われた人を知りませんか―という募集を。さらに、その話が事実と確認された場合には5万円を差し上げますという賞金を付けてね」村田さんはにやりと笑い、得意気な表情を浮かべた。

「で、投稿は来たんですか?」私は早く結果が聞きたかった。

「ええ、バッチリでしたよ。さすがに賞金は効きますね。結構集まりましたよ、その中で信ぴょう性の高い二人と匿名で会う約束をしました。そこで、どうです?修司さんも一緒に話を聞きに行きませんか」

 急な展開に私は戸惑っていた。

つづく

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