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第九話:女剣士と幼馴染

ノーラン武器工房は活気づいていた。


第二師団との直接契約を交わし、職人たちの士気も上がっていた。


材料も職人たちで手分けして調達する様になった。


職人たちはタティスの指導で材料の目利きも出来る様になっていた。


工房の炉もカイルの「神の目」で微調整しながら全て作り替えた。


もともと腕の良い職人たちは質の高い材料で的確に槍の穂先を作り上げていった。


ノーランは工房の改良に精を出していた。


ノーランの机の上には第二師団からの注文書があり、バルカス商会との取引は途絶えていた。


ハンナの表情も明るくなった。


工房の資金繰りで悩んでいた頃の眉間の皺は綺麗に消え失せていた。


カイルは、ひとりで設計図を引いていた。


レイラの骨格、重心、大太刀を扱う筋力。


全部頭に入っている。


あの細いカラダであれだけの出力を出せるのは凄いな…。


最初に見た瞬間、骨格や筋肉の「質の違い」に驚いた。


ただ、一つだけ引っかかっていた。


「大太刀を使う理由は耐久性か」


戦場では刃こぼれしてからが長い。


大太刀の「重さ」で相手を倒しているのだろう、とカイルは考えた。


切れなくなった剣で、相手を倒すには遠心力でなぎ倒すしかなくなる。


あの太さなら折れる事は無いだろう。


ただ、それでは体力の消耗も激しいはずだ。


耐えているのは彼女の特殊な骨格、筋肉、そして鍛錬の賜物なんだろう。


しかし…それは彼女に「合っている」わけではない。


彼女は武器に「合わせて」戦っているのだ。


強くて、軽くて、斬れ味が衰えない、そんな剣が彼女のパートナーとして相応しいだろう。


相手の剣を簡単にへし折る剛性を確保すれば扱いやすい軽い剣の方がいいはずだ。


彼女にピッタリで、まさにカラダの一部として機能する剣。


一週間後、彼女はひとりでノーラン武器工房にやってきた。


カイルが出迎えた。


「レイラさん、こんにちは」


レイラは返事をしない。


それどころか、馬から降りようともしない。


「剣を持ってこい」


レイラはカイルに目を合わせずに言った。


カイルは毅然とした態度で言った。


「レイラさん、馬から降りてください」


カイルに気圧された様子で、レイラは馬から降りたが、相変わらず機嫌は悪そうだ。


「今の大太刀を抜いてみてください」


「なぜそんな必要がある」


「バランスを見ます」


レイラは不服そうに大太刀を抜いた。


「構えてください」


レイラは大太刀を構えた。


そして振り下ろす。


ゴォ!という音がした。


カイルは神の目で動きを見る。


「やっぱり、重心がズレますね」


「振り下ろす時に、ズレる」


「その剣はあなたに合ってないです」


レイラが鋭い眼光でカイルを見た。


「私はこの剣で武勇を上げてきた」


「百人以上、なぎ倒してきたのだ」


カイルは静かに答える。


「それはレイラさんが強いからです」


「でも、ノーラン武器工房の剣なら二百人以上倒せる」


レイラはカイルの言葉と、その自信に満ちた落ち着きに驚いていた。


カイルが白鞘に収まった剣を差し出す。


大太刀より明らかに細く、短い。


貧弱な剣だ。私を舐めるな。


レイラの顔に不満が浮かぶ。


「こんな小さな剣で戦えるか」


そう言いながら鞘から剣を抜いた瞬間、レイラの言葉が止まる。


刀身の、今まで見た事の無い静かな存在感に圧倒される。


青白く光る刀身。見ただけで分かる。


この剣はまるで、生き物の様だ。


恐る恐る構える。


振り下ろす。


シュッ!


空気を切り裂く感覚が指先から伝わる。


軽やかで、まるで自分のカラダの一部の様に一切の違和感がない。


今まで使っていた大太刀の様なカラダが引っ張られる感覚とは大違いだ。


レイラの表情が、少しずつ変わっていく。


無言のまま、何度も何度も剣を振る。


剣を振るたびに、剣とカラダが一体化していくのが分かる。


やがてレイラは剣を白鞘に納め、カイルを見た。


翡翠色の瞳に今までとは別の光が宿っていた。


「なぜ分かった」


「あなたを見て設計しましたから」


長い沈黙。


「名前は」


「カイルです」


レイラは踵を返した。


馬に乗りながら、背中越しに言った。


「覚えておく」


それだけ言って、白馬は駆け去った。



その様子を、工房の陰からハンナが見ていた。


ハンナは、複雑な表情でカイルとレイラのやり取りを見ていた。


エドガーはそんなハンナに寄り添い、肩を抱きながら自らのブレスレットをハンナに当てていた。


カイルは目の端でハンナに気付いていた。


まただ…。


ハンナがたまに放つ、あの不思議なエネルギー体は何だ?


前世でも見た事が無い。


敢えて言うなら電力…磁力…マイクロ波?


いや、違うな。


もっと複雑なエネルギー体だ、変幻自在でありながら強くも弱くも見える。





御覧頂いた皆様に心より御礼申し上げます。

初回投稿から毎日投稿を続けておりますが、最終話まで毎日投稿で走り切るつもりです。

常時、原稿ストックを40本以上キープして公開を続けます。

「エタりません、完結までは。」

最終話までお付き合い頂けましたら幸いです。


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