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第十話:北風の予兆

ノーラン武器工房の業績は相変わらず順調に伸びていた。


槍の穂先や騎士団向けの汎用品の剣の注文も入っている。


職人たちも毎日忙しそうに働いている。


槍の穂先の納品、次の剣の製作準備。


近々開催される武器の入札会への参加も依頼されている。


資金面の不安が無くなったため、ハンナの機嫌もいい。


絵に描いた様な穏やかな日常。


しかし、ここで作っているのは「武器」なんだ。


カイルは、スキーンズの言った言葉が引っかかっていた。


「北部に、嫌な風が吹き始めている」


あれは、大国からの脅威、という意味なんだろうな。


大人達が言うには大国とこの国の軍事力の差は歴然だ。


しかもここで作っているのは剣、槍だ。


いずれも近接用の武器で「抑止力」にはならない。


いずれは「飛び道具」も必要になってくるだろうなあ…でも、火薬も電力も無いと厳しいかあ…。


カイルは鼻と上唇の間にペンを挟んで、天井を眺めていた。


工房の入り口から、ハンナが入ってきた。


「カイル、忙しい?」


「ずーっと机の前にいるよね」


「たまには散歩しない?」


ハンナの笑顔を見ながら、カイルは鼻からペンを落とした。


カイルとハンナは街を抜けて川べりを散歩していた。


「おじさんの工房、凄いね」


「王宮御用達になったんでしょ?」


「カイルも頑張ってるもんね」


「マリアおばさんも若返ったみたい」


ハンナは、マリアと仲がいい。


マリアはハンナを小さな頃から我が娘の様に可愛がっていた。


川から吹く風がマリアの髪を揺らす。


カイルはハンナの横顔にドキッとした。


ハンナって、大人っぽいな…。



コービンが緊張感のある表情でノーラン武器工房にやってきた。


ノーランに槍の穂先の注文書を持ってきた様だ。


ノーランは、注文書を見て手が止まった。


「これは…」


コービンは申し訳なさそうに言う。


「前回発生分に加えて、だ」


「無理言ってすまんね」


ノーランは察した様子で頷いた。


散歩から帰ってきたカイルはノーランに呼び止められた。


「戦が、近いのかも知れん」


こう言いながら、コービンの持ってきた槍の穂先の注文書をカイルに見せた。


毎月の注文の2倍の本数だった。


「それとな…」


と言いながら、王宮の印が押してある封筒をカイルに差し出した。


「王宮への招待状だ」


「スキーンズ師団長がお前に用があるらしい」


カイルは封筒を開けた。


「明日の朝、王宮に来てほしい」


これしか書いてなかった。


カイルはスキーンズの「意図」を読みかねていた。


でもどこかで、昔こんな雰囲気を味わったことがあるなあ…という気もしていた。


この平和を揺るがす影の様なもの。


それが北からやってくる。


カイルは前世の記憶が鮮明に蘇ってきていた。


国を守るための兵器を、自分は作っていた。


他国の兵器を圧倒する性能、精度、それを持つことで他国は侵略を諦める。


経済的合理性も無くなる。


レールガンの射出試験。仕様書の山。


「俺の作ったモノが人を殺める日は来なかったな」という走馬灯。


でもまた、自分は兵器を作っている。


この世界でも、守るための兵器を作らないといけない。


ノーランとマリア。タティス。職人たち。


そしてハンナ。


カイルの中で結論は出ていた。


「抑止力を持てばいいんだ」


「大国とマトモに戦わなくて済む様に」


翌朝、カイルはノーランに告げる。


「父さん、スキーンズさんに会いに行ってくる」


ノーランは深く頷いた。


カイルの肩をポンポン、と二度叩いた。


王宮から迎えの馬車が到着した。


カイルが工房を出ようとした時、後ろからハンナの声がした。


「カイル!」


振り返ると、ハンナが立っていた。


不安げな表情で、カイルを見つめている。


ハンナは何か言いかけたが、でも言葉にならなかった。


カイルは微笑んだ。


「ハンナ、すぐ帰るよ」


ハンナは頷いた。


その細い首元のネックレスが、朝の光を受けて鈍く光った。


カイルはそれを見て、また「あのエネルギー体」をイメージしたが、今のハンナからは出ていない。


カイルは馬車に乗り込んだ。


さて…抑止力といってもなあ、どうしたもんかなあ…。


弾丸や砲身は作れるけど、火薬はこの国のどこかにあるんだろうか?


飛び道具があれば北部高原や、海側の防御も地形的になんとかなるんだが…。


カイルは物思いに耽りながら、馬車に揺られていた。






御覧頂いた皆様に心より御礼申し上げます。

初回投稿から毎日投稿を続けておりますが、最終話まで毎日投稿で走り切るつもりです。

常時、原稿ストックを40本以上キープして公開を続けます。

「エタりません、完結までは。」

最終話までお付き合い頂けましたら幸いです。


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