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第十一話:神の目と軍師の思惑

カイルの乗った馬車は、王宮の大きな門に到着した。


門の左右に立っている門番は、馬車の前の席に座っているコービンに敬礼し、門を開いた。


王宮の敷地内に入ると、カイルは周りを見渡した。


(王宮の中か…意外に質素だな)


特段、きらびやかさは感じない。


手入れの行き届いた芝生や植樹、適切な配置で建物群が整然と並んでいる。


(裸の王様って訳でもなさそうだな)


やがて、コービンとカイルを乗せた馬車は王宮の敷地内の真ん中辺り、最も大きな建物の前に停まった。


「さあ、カイル、行こうか」


コービンに促され、カイルは馬車を降りる。


使い古されたキルティング状の防護服を着た兵士たちが周りを歩いている。


あれは、確かギャンベゾンだったかな…布を強化して斬撃を防御する為のものだな。


あれはローテクながら幾重にも重ねた麻の摩擦力を利用して刃がカラダに食い込むのを防ぐ効果がある。


ただ…「突き」には弱い、剣には強いが槍で突かれたら穂先は通ってしまう。


そもそも重くて通気性も悪い、着ている兵士の体力を削ぐな…。


カイルは早速「神の目」で分析と思考を始めていた。


「よぉ!カイルじゃないか!」


後ろから声をかけられた。


槍部隊を率いるローリーだった。


あの、最初に作った槍の穂先のテストの日以来の再会だ。


カイルの「目」は無意識にローリーの体躯を分析していた。


細身だが、運動能力が飛び抜けている。


動体視力も常人の域を超えている。


「あぁ、ローリーさん」


「お久しぶりです」


ローリーはニコニコ笑っていた。


「お前の槍の穂先で他の師団の槍部隊と交戦訓練をしたんだ」


「ヤツらの穂先を俺様ひとりで全て真っ二つにしてやった」


「本当は穂先を交えずとも勝てるんだがな、わざとへし折ってやった」


「なぜだかわかるか?」


悪戯っぽい顔でニヤニヤ笑っている。


「ローリーさんの腕なら穂先をそのまま相手のカラダに打ち込めるはずです」


「なぜ、わざわざ相手の穂先を折ったんですか?」


ちょっとガッカリした顔でローリーは答える。


「もうすぐ武具の入札会だろ?」


「ノーラン武器工房の宣伝になるだろ?」


わかってねえなあ、という表情でローリーは少し拗ねている様だ。


「ローリーさん、お心配り感謝致します」


ローリーは、また笑顔に戻った。


「お前はいちいちガキっぽくねえ物言いをするよな」


「で?どうした?今日はなんでこんなとこに来てるんだ?」


カイルは横にいるコービンの方を見た。


コービンの口から言わせた方が良さそうな気がしたからだ。


「スキーンズ師団長との面会のためだ」


ローリーはほぉ、という顔になった。


そして、ニヤリと笑いながら、カイルの方を見た。


「カイル、また俺たちを驚かせてくれよ、楽しみにしてるぜ」


そう言って、ローリーは去って行った。


コービンは、カイルを建物の中に招き入れた。


王宮の中、というよりも軍事施設の雰囲気が漂っている。


カイルはどこか、懐かしさを感じていた。


前世の記憶が重なる。


エンジニアとして防衛省や防衛装備庁へ通っていた日々。


自分は今、「エンジニア」として国の防衛を担当する重要人物に会いに来ている。


スキーンズ師団長の執務室の前に到着した。


コービンはドアをノックし、こう言った。


「スキーンズ師団長、カイルが到着しました」


奥から、返答がある。


「入れ」


スキーンズは、大きなデスクに書類をたくさん広げ、椅子に座ってそれらを真剣な表情で眺めていた。


カイルが執務室に入ってくると、ソファに座るように促した。


「わざわざ来させてすまなかったな」


「ただ、ここでないと話せない内容なのだ」


スキーンズは、執務室に居た秘書らしき女性に声をかける。


「紅茶を頼む」


女性が執務室を出て行くと、カイルの真正面に座り、暫く黙っていた。


沈黙の後、言葉を発した。


「お前は、何者だ?」


スキーンズの表情からは何も読み取れない。


怒りも、疑念も、その他の感情も一切そこには存在していない。


全くの、無表情だ。


カイルは言葉を探していた。


前世の記憶で、なんて言っても信じられないだろうしなあ…。


そして、この「見える能力」も上手く言語化出来る自信も無い。


スキーンズは、立ち上がった。


そして、目にも止まらぬ速度で腰に下げた剣を抜き、カイルに振り下ろした。


微かにシュッ!と音がした。


刃先がカイルの眉間の僅か数ミリのところで静止している。


カイルは、スキーンズの目をじっと見ていた。


そこで、秘書らしき女性が紅茶の入ったポットとカップを乗せたトレーを持って執務室に戻って来た。


「あらあら、可哀想に」


「師団長、その子は魔法使いじゃありませんよ」


「カラダから全く魔法の気配がありませんもの」


「それに、魔封石も身に付けてません」


彼女は微笑みながらスキーンズに語りかける。


スキーンズはゆっくりと剣を腰の白鞘に戻す。


そして、カイルに詫びた。


「すまなかったな」


「彼女の名前はグレースだ」


「我が師団の軍事顧問を務めている」


「彼女は魔法使いの末裔だ」


グレースは、カイルに近づいてきた。


「貴方は魔法使いじゃない」


「でも、特殊な能力を持っている」


「これも、見えるんでしょ?」


そう言いながら、グレースは黒い指輪を外した。


グレースのカラダから特殊なエネルギー体が立ち昇った。物凄い圧力だ。


ハンナのそれと同じ波動だが、出力がまるで違っていた。


カイルは思わず手を目の前にかざした。


「やっぱり」


グレースは微笑みながら、再び指輪を指に纏わせた。


「貴方は魔法使いじゃない」


「でも、私の魔力は見えている」


「そして、私たちの知らないことをたくさん知っている」


「そうよね?」


グレースは漆黒の波打つロングヘアにアメジストの様な紫色の瞳、透き通る様な白い肌、美しい顔立ちだった。


ハンナに似ているな、と思った。


そして、グレースはじっとカイルの目を覗き込んで来た。


「貴方の瞳には、不思議な光があるわ」


「決して、邪悪な光じゃない」


「むしろ、正義の光?なのかしらね」


「魔法使いではないけれど、普通でもない」


「貴方は何者なの?」


カイルは言葉を探していた。


「僕は鍛冶屋の息子です」「今は」


グレースは微笑んだ。


「今は?じゃあ、その前は?」


「防衛装備品を作っていました」


「防衛装備品?」


「そうです、戦争しないための、防衛装備品です」


ここでスキーンズが割って入る。


「戦争をしないため、だと?」


「そうです、相手がこちらを攻めることを諦めさせるための、武器です」


スキーンズは続けた。


「コチラを攻めることを諦めさせる、それは相手を打ち倒すということではないのか?」


カイルは、スキーンズの目を見据えてこう言った。


「圧倒的な精度、性能の武器を作り、圧倒的な練度の兵士にそれを厳格に運用させる」


「これは攻め辛い、戦うと大きな損害が出る、そして勝利するのは難しい」


「そんな相手に、スキーンズ師団長は戦いを挑みますか?」


暫く、押し黙っていた。


そして、言葉を絞り出した。


「私は、師団長だ」


「国を守るのが仕事だ」


「戦など、やりたくてやっているわけではない」


「部下が命を落とす事を望む指揮官はいない」


そう言うと、窓の外で訓練に励んでいる兵士たちへ視線を移した。


グレースが言葉を継いだ。


「貴方は、この国にある材料で、強い武器を作れる」


「お父様の技術を上手く使って、槍や剣を作り出した」


「この国のために、貴方のチカラを借りたいの」


グレースは優しい笑顔で、カイルの手を取った。


グレースの手から、哀しみの感情が流れ込んできた。


ハンナの時の様な鮮明な画像ではなかったが、大切な人を失った哀しみ、憎しみをぶつけられる哀しみ。


グレースの気持ちが伝わってきた。


そして、チカラを借りたいのだ、という切実な願いも伝わって来た。


カイルは言葉を噛み締めながら、語る。


「僕は、父さんや母さんを守りたい」


「タティスさんや工房のみんなもそう」


「ハンナやエドガーおじさんだって」


「僕は、この国が大好きです」


「だから、この国を守りたいです」


スキーンズとグレースは、カイルの瞳をじっと見つめていた。













御覧頂いた皆様に心より御礼申し上げます。

初回投稿から毎日投稿を続けておりますが、最終話まで毎日投稿で走り切るつもりです。

常時、原稿ストックを40本以上キープして公開を続けます。

「エタりません、完結までは。」

最終話までお付き合い頂けましたら幸いです。


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