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第八話:鋼の剣と工房の未来

約束の日、スキーンズ師団長はコービン工廠長を伴ってやって来た。


ノーラン、タティス、カイルの三人で出迎えた。


スキーンズは馬から降りると、ノーランの前に立った。


ノーランはスキーンズと向き合った。


「あなたがノーラン殿か」


「お初にお目にかかる」


「息子殿とはこれで三度目だがな」


ノーランはチラッとカイルを見た。


スキーンズは続けた。


「この国いちの鍛冶屋と話がしたかった」


ノーランはゆっくりと口を開いた。


「息子が、お役に立てたなら」


「それは光栄なことです」


スキーンズは頷いた。


そして、工房の中に目をやった。


「中を見せてもらえるか」


ノーランはスキーンズとコービンを迎え入れた。


炉、金敷、道具の配置。


スキーンズとコービンはそれぞれの視点で工房の中を見渡していた。


「剣を見せてもらえるか」


カイルは白鞘に収まった剣を、両手でスキーンズに差し出した。


スキーンズはゆっくりと鞘から剣を抜いた。


工房の薄明かりの中で、刃が青白く輝いた。


スキーンズは白鞘から剣を抜き、刀身を見つめた。


「ほぅ…」


スキーンズは工房を出て、外で剣を構えた。ビュッ!ビュッ!っと、剣を振るう。


「ノーラン殿」


スキーンズはノーランに向き直った。


「この剣は、あなたが打ったのか」


ノーランは答えた。


「息子の設計で、三人で打ちました」


スキーンズはもう一度、刃を見つめた。


「設計は息子殿か」


「もしかして、だが」


「この剣は、私に合わせて作ったのか」


今度はカイルに聞いた。


「はい、スキーンズさんに合わせて設計しました」


「私専用、という意味か」


「そうです」


「なぜそうしようと思った」


「カラダと一体になれる剣です」


「槍の扱い方や、今お持ちの剣を見て」


「ふぅむ…」


スキーンズはまた、剣を見つめていた。


「この剣はまさに、私の一部だ」


「ノーラン殿、評判通りだ」


スキーンズはノーランを見ながら微笑んでいた。


「戦場の兵士が命を預ける武器」


「あなたはそれを作れる鍛冶屋だ」


「ノーラン殿に頼みがある」


スキーンズは改まった言い方をした。


「我が第二師団の専属工房になってはもらえないだろうか」


「武器の入札会も近いのだが…」


「師団長としては我が師団を優先したい」


そう言ってスキーンズはニヤリと笑った。


ノーランは、落ち着いた声で答えた。


「この鋼の原料は、材料商から買えません」


「息子が集めてきた物です」


「それに、仕上げるのに時間もかかります」


「大量に作るのは難しいです」


スキーンズは笑顔のままだった。


「事情は息子殿からも聞いている」


「ただ、あの槍の穂先1本でナマクラ百本は折れるだろう」


「この剣もそうだ」


「数が必要なのはナマクラだからだ」


「私は量ではなく本物が欲しいのだ」


「私に協力してくれないか」


ノーランは、少し間を置いて、


「分かりました、お国の為です」


「精一杯やらせてもらいます」


スキーンズは満足気に頷いた。


そして、コービン工廠長に指示した。


「ノーラン武器工房との契約書を作れ」


「剣は金貨3枚、穂先は5本で金貨1枚」


「ノーラン殿、この条件でよろしいかな」


ノーランは頷いた。


「早速で悪いが、剣をもう1本頼む」


「その剣の使い手を近々ここに来させる」


今度はカイルに向かって声をかけた。


「彼女のカラダの一部となる剣を頼む」


「わかりました、今度は一週間ください」


冷静に答えるカイルの後ろで、タティスは目を剥いていた。


(槍の穂先5本で金貨1枚!)

(剣は金貨3枚!)


工房の中のハンナは涙を流していた。


三日後の朝、工房の前に二頭の馬が止まった。


一頭はコービン工廠長の馬だった。


コービンは馬から降り立ち、カイルに気付くと笑顔を見せた。


もう一頭は、純白の馬体に金の装飾が施された鞍、乗り手の長い金髪が、朝の光の中でキラキラと輝いている。


抜けるような白い肌。


切れ長の翡翠色の瞳が、工房を一瞥した。


背筋が伸び、凛とした佇まいだ。


腰に下げた剣は、その細いカラダにそぐわない大太刀だった。


コービンが紹介した。


「第二師団、騎士団のレイラだ」


レイラはカイルをちらりと見た。


そして、すぐに視線を外した。


「子供が、戦士の剣を作れるのか」


声は低く、静かだった。


静かな怒り、苛立ちを孕んだ声だった。


カイルは表情を変えなかった。


「馬から降りてください」


「カラダを見せてもらえますか」


レイラの眉が上がり、瞳の強さが増した。


「なんだと」


「剣を設計するので」


「カラダの特徴や動かし方が知りたい」


「分からないと作れません」


レイラはカイルを見下ろした。


翡翠色の瞳には明らかな怒りが窺える。


「子供の作る剣など必要ない」


コービンが口を挟んだ。


「レイラ、スキーンズ様の命令だ」


レイラは黙って馬から降りたが、刀の柄に手を置いたままだ。


カイルはレイラをじっと見ていた。


神の目が、静かに動いていた。


身長、骨格、重心の位置、利き手。


剣を腰に下げる角度。


馬から降りた時の足さばき。


「分かりました」


カイルは言った。


「もう大丈夫です」


レイラの眉が、つり上がった。


「今のでわかるのか」


「はい」


「一週間後に来てください」


レイラはカイルを睨みつけていた。


カイルはもう、レイラ専用の剣の設計図を頭の中で描き始めていた。






御覧頂いた皆様に心より御礼申し上げます。

初回投稿から毎日投稿を続けておりますが、最終話まで毎日投稿で走り切るつもりです。

常時、原稿ストックを40本以上キープして公開を続けます。

「エタりません、完結までは。」

最終話までお付き合い頂けましたら幸いです。


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