第六十四話:死神ディアスと神の指令書
神の指令書が切った期限の六日目。
カイルは、ディアスが拠点のすぐ近くの森の中に居ることを確認した。
今日、来る。
もう、すぐそこに居る。
カイルは、皆に言った。
「今日は宴を催しませんか?皆で楽しみましょう」
ベルの目を見つめて、こう言った。
「料理と、ワインをお願いします、ワインは大量にね」
ベルはやや緊張した面持ちで頷いた。
グレースはカイルをじっと見つめていたが、何も言わなかった。
日が暮れて、宴が始まった。
牛フィレ肉をバターでソテーしたもの。
フォアグラのポワレ。
スライスされた黒トリュフ。
ジャガイモのピューレ。
などなど。
大きなテーブルはこれらの料理で埋め尽くされ、ワインのボトルも並んだ。
ノーラン、エドガー、プホルスの仲間たち、ベッツやハンナ、シェルビーたち、みんなでテーブルを囲んだ。
プホルスはワインを飲みたそうにしていたが、別室でカイルと二人分、料理だけが運び込まれた。
「なあカイル、俺もワインを飲みたいんだが」
「あなたはつい数日前、死にかけていたんですよ?もう少し我慢してください」
「ふう…」
プホルスは食事を口に運び始めた。
大テーブルからは皆の笑い声が聞こえてくる。
そうだ…みんな、もっと騒いでくれ、もっと酔ってくれ、警戒心を失くしてしまうまで。
宴会は深夜まで続いた。
プホルスは、酒が飲みたくて仕方ないようだ。
「なあカイル…ちょっとだけでいいんだ、俺にも酒を飲ませてくれよ」
「仕方ないなあ…少しだけですよ?」
カイルはワインを取りに大テーブルに行った。
グレースに目を向ける。
カイルは目配せをした。
グレースはグラスにワインを注いだ。
それをカイルに渡す。
カイルはそれを持ってプホルスの部屋に戻った。
「この一杯だけですよ」
「ありがてえ、カイルすまねえな」
プホルスはワインを美味そうに飲み始めた。
「大怪我したせいかな、酒が強くかんじるな」
プホルスは笑いながらカイルに言った。
「そりゃそうですよ、本当ならまだ酒なんて飲んだらダメなんですから」
実は、グレースの魔法でアルコール度数を上げてもらっていた。
怪我の影響でプホルスは酔いが早く回るはずだ。
想定通り、プホルスは酔っ払って寝てしまった。
部屋のドアは少し開けてある。
グレースは、大テーブルでワインを飲みながら、プホルスの部屋のドアを時折確認していた。
やがて、皆酔っ払って寝てしまった。
グレースも寝たフリをしている。
神の指令書と神の目がディアスの位置を正確に把握していた。
森を出て、少しづつ距離を詰めて来ている。
午前二時。
静寂の中、ディアスは音も無く忍び寄ってくる。
周りの闇に完璧に溶け込んでいる。
僅かな光ですら吸収してしまう真の闇の存在。
ディアスは肩に大きな「鎌」を乗せていた。
プホルスを仕留めるための道具だろう。
建物の入り口から入り、音も無く歩を進める。
プホルスの部屋の前で立ち止まった。
しばらく、動かなかった。
突然、プホルスの部屋に滑り込み、鎌を振り上げた。
その瞬間、カイルの右手が凄まじい光を放ち、同時に部屋のドアがバタン!と閉まった。
ディアスは、身動きが取れなくなっていた。
部屋全体に結界が張られ、ディアスは逃げ道を失っていた。
「もうお終いだよ、死神ディアス」
「神の裁きを受ける時間だ」
カイルは落ち着いた声で言った。
グレースは異変に気付き、ドアを開けようとしたが開かなかった。
部屋の中から聞こえてくるカイルの声に耳を澄ませた。
すぐにウリアスとオルティスが到着した。
カイルは右手をウリアスに向かって広げた。
空中に神の指令書が浮かんでいる。
ウリアスはそれを受け取ると、ディアスに向かって宣言した。
「天界と地獄の支配者たる神の命である」
「死神ディアス、お前を拘束する」
ディアスのカラダは鎌ごと光の鎖でぐるぐる巻にされていった。
オルティスは嬉しそうだった。
「指令書の期限内だ、特別ボーナスだぞ!」
「やっと天界に帰れる!」
ウリアスは呆れて言った。
「まだ仕事は残ってるぞ」
カイルは二人にお礼を言った。
「あなた方のおかげで助かりました」
ウリアスは首を横に振りながら言った。
「いやいや、歪より来たりし者、キミの手柄だ、感謝する」
「これから、この死神とともに神の理を乱した者を処罰に向かう」
「借りが出来たな、いつか返す」
「また会おう」
そういうと、ウリアスとオルティスは翼を広げ、ディアスを光の鎖でぶら下げたまま飛び立って行った。




