第六十三話:神の指令書と歪より来たりし者
神の指令書はカイルが右手で受け取った瞬間、柔らかな光を放ちつつ、手の中に溶け込んでいった。
と同時に、カイルは右手から伝わる「情報」を脳内に読み込んでいた。
IDの様な記号、不正契約の履歴、不正が行われた場所の位置情報、そして使用されている「不正コード」の意味まで全部記録されている。
まるで、この世界のソースコードの一部を直接閲覧している気分だった。
ウリアスとオルティスは目を見開いたまま、固まっていた。
カイルは右手の手のひらをじっと見つめていた。
「おいおい…消えて無くなっちまったぞ!」
オルティスがやっと声を絞り出した。
ウリアスは黙っていた。
カイルは落ち着いた声でゆっくり言った。
「神の指令書から、様々な情報が読み取れる様になりました」
「死神ディアスは代理契約という禁じられた手段で同じ依頼人の仕事を複数回請け負っている」
「しかも、代理契約で差し出す代償はカネで買った罪人の命だ」
「真の依頼人は、自らは何のリスクも負わずに殺人を続けている」
「しかもディアスは、不正な雇用契約を結んで魔法使いたちを駒として使っている」
「これはかなり悪質だ」
「ディアスを利用して殺人を続けている真の依頼人も罰するべき、ということですね?」
ウリアスとオルティスは黙って小さく頷いた。
「死神ディアスはあなた方の気配は読み取れるが、僕に神の指令書が渡ったことは気付いていないのでは?」
「つまり、あなた方が去ったら必ずここへ来る…しかし、僕の右手に、指令書は、ある」
「神の指令書はキミの手の中に消えてしまったから、俺たちが執行人を裁くことはもう出来ない」
「そうですね、でも、僕の手に指令書が渡ったということは、それが神の意思なのでは?」
「…。」
「僕がやるしかなくなった、ということですね」
カイルは二人を交互に見ながら、力強く言った。
カイルは二人を説得して、東の島国に帰らせた。
彼らがここに居る限りディアスは現れない。
ウリアスとオルティスは死神の居場所は分からない、と言っていた。
しかし、神の指令書と神の目を組み合わせて周りを見渡してみると、遥か遠くではあるがディアスらしき黒い影が認識出来た。
こちらを、いや、プホルスをじーっと観察している様子が手に取る様にわかる。
ディアスはプホルスを観察しているつもりだろうが、こちらのモニターには奴のログが丸見えだ。
ウリアスとオルティスを返したことで、こちらへの距離を徐々に詰めてきている。
やはり、カイルの手に神の指令書が渡ったことには気付いていないようだ。
そして、契約の内容を見返してみると、暗殺対象はプホルスのみで、他の者には手出し出来ない仕組みの様だ。
こちら側の「防御」はプホルス全振りでいい、他の者が怪我をするリスクは無い。
「あとはハニーポット作戦だな」
カイルはそう呟くと、「拠点」に居る他の者に細かな支持を出した。
プホルスと同室に居るのはカイルのみにする。
皆は「暗殺者」はもう来ない、という素振りで過ごして欲しい。
魔法のシールドを張る必要も無い。
皆は「何故だ?」と訝ったがカイルは右手でそれを制した。
「僕を信じて。僕がプホルスさんを守る」
神の指令書と、神の目の融合。
皆は「カイルには勝算があるのだ」と感覚的に理解した。
カイルがハニーポット作戦を開始してから二日が経過した。
ディアスは一度失敗しているからか、一気には距離を詰めて来ない。
ジリジリと近付いては来ている。
カイルは冷静に、ディアスを待った。
東の島国のカルデラの中。
ウリアス、オルティス、ソト、ヘイダーが四人でエネルギー体のマグマを眺めていた。
ヘイダーが軽口を叩く。
「死神ディアスと同じですよ、地上の民に仕事を丸投げするなんて」
「特別ボーナスの権利は、無しだな」
オルティスは反論する。
「だって神の指令書があの歪より来たりし者の手の中に消えてしまったのだぞ?」
「俺たちから仕事を放棄したわけじゃない」
ウリアスも同調した。
「歪より来たりし者は俺たちの姿も見えていたし、声も聞こえていた。」
「あそこに指令書を持っていけ、という神の意思だったとしか思えん」
ソトが口を開いた。
「そもそも、歪より来たりし者って何なんですか?初めて聞きましたよ」
「人間なんでしょ?しかも魔法使いですらない」
オルティスもウリアスも言葉に詰まった。
「俺は初めて見た」
「俺も初めてだ」
ソトは肩をすくめて「ダメだこりゃ」という視線をヘイダーに送った。
ヘイダーはニヤニヤしながら言った。
「その、歪より来たりし者が上手くやってくれるといいですね、7日以内にね」




