第六十話:和解の兆しと西の影
夕方には、プホルスはベッドで上半身を起こせる様になっていた。
エドガーや、ノーランと会話できるまで回復していた。
表に、早駆けの馬車が相次いで到着した。
プホルスの命の危機を知り、プホルスの仲間たちが続々と集まって来ていた。
皆、グレースの姿を見て驚いていた。
しかし、プホルスがグレースも助けてくれた恩人だと告げると、皆感謝の言葉を口にした。
ノーランは、プホルスの仲間たちにしばらくはプホルスの側にいてくれないか、と頼んでいた。
影の男の特徴、特に魔力を魔封石無しで消せる能力については口を酸っぱくして何度も警告していた。
プホルスの仲間たちはノーランの警告を受け入れ、しばらくはこの拠点に残ることを決めていた。
カイルは「影の男」が何故魔封石無しで魔力を完全に隠せたのか不思議に思っていた。
しかも、グレースの自動小銃の弾丸を避けながら後方に凄いスピードで逃げて行った。
カラダは前を向いたままだった。
人間わざとは思えなかった。
それに、影の男はエネルギー体を発していなかった。
魔法使いではないのか…?
再度「影の男」と対決して、勝つ方法はあるのか?
東の島国のカルデラで、今日もウリアスは目を閉じたままエネルギー体のマグマの守りをしていた。
背中の巨大な翼を静かに広げ、エネルギー体の蠢きに意識を向けている。
エネルギー体のマグマは、今日は大人しい。
オルティスが面倒くさそうにやってきた。
翼がだらんと垂れ下がっている。
「お前その翼、いい加減どうにかしろよ」
ウリアスが静かに言った。
「三百年振りの単身赴任だっての」
「テンション上がらないって」
オルティスはウリアスの隣に腰を下ろし、エネルギー体を眺めた。
「今日は大人しいな」
「今日は、な」
ウリアスは目を閉じたまま答えた。
「こいつがいつ大人しくなるかは」
「まあ、わからんよな」
オルティスは深いため息をついた。
「俺、そろそろ天界に戻りたいんだが…単身赴任は勘弁して欲しいなあ」
「次の休みまで待て」
オルティスの翼がさらに垂れ下がった。
しばらく沈黙が続いた。
エネルギー体は今日は「凪」だった。
「ところで、だ」
ウリアスが言葉を継いだ。
「ある死神が妙な動きをしている」
「死神?」
「同じ契約人と何度も契約している様に見える」
「ひとつの契約が終わったら、その契約人を地獄まで連れて帰るのがルールだろ?」
「それが、同じ地上の民から何度も依頼を受けている様に見えるのだ」
「自分の命を代償に死神と契約するのがルールだろ?命がいくつもあるかい?」
「その依頼人たる地上の民は、どうやら身代わりに契約させている様だ」
「そりゃ酷いな、地獄に落ちるだけじゃ済まないぞ」
「しかも、だ」
ウリアスはさらに言った。
「これは噂だが、」と前置きし
「歪より来たりし者、が現れたらしい」
「歪より来たりし者?」
「そうだ」
「俺は見たことないなあ…」
「俺も、ない」
二人は静かにため息をついた。
そこへ、どこからともなく気配がした。
「よーっす」
ソトだった。
背中の翼をやや狭めて、スルスルと降りてくる。
「お前、今日だったか?日替り勤務」
「いえ、違いますよ」
「なんの用だ」
「死神の件で、神から指令です」
二人はまた、ため息をついた。
「ちょうどその話をしていたところだ」
「俺たちはここの守りをしている」
「他の仕事は出来ないぞ」
ウリアスとオルティスは「帰れ」と言わんばかりに羽をバタバタさせた。
「天界も今めちゃくちゃ忙しいんですよ」
「任務中は僕らが代役しますから」
後ろにヘイダーもいた。
「仕事をちゃんとやったら、単身赴任を解除してもらえるかも?分かんないけど」
ヘイダーは、ヘラヘラしながら言った。
「若造が無責任なことを言うな」
オルティスはまたまたため息をついた。
ソトはウリアスに強引に「指令書」を押し付けた。
「上の言うことには逆らえないでしょ?」
「なんで俺らなんだ…」
ウリアスは今日何度目かわからないため息をついた。




