第五十六話:大陸に忍び寄る影
ベルはグレースが書類に目を通してくれたので、固かった表情が少し和らいでいた。
奥から別の書類や書籍を持って来て、グレースに差し出した。
グレースはあっという間にそれらを読み込むと、ウンウン、と頷いていた。
何かアドバイス的なことをベルに伝えている。
ノーランとプホルスは意気投合し、大陸とロサーナの未来について興奮気味に語り合っている。
エドガーも質問を受ける度に専門知識を二人に披露し、議論を助けている。
男三人の熱気に比べ、女二人は静かに分かり合おうという機運がやっと、醸成されつつある段階だ。
カイルは、急ぎ過ぎていた自分を少し反省していた。
歴史認識ってヤツだな…どちらにも正義はあるし、遺恨も残っている。
ゆっくりと解きほぐしていく必要がある。
それに、最終的な判断はスキーンズ次第だ。
そのためには、グレースに前向きな気持ちになってもらわないと前に進まない。
グレースの服の下、腰には自動小銃が隠されていた。
装填されている弾は魔封石のコーティングがされている。
カイル自身が設計した隠密行動用のコンパクトな自動小銃だ。
これをグレースが身に付けている時点で話はそんなに単純ではないのだ。
西の国、クローンワース帝国では、国王であるクローンワース三世が配下から報告を受けていた。
ロサーナ王国へ探りを入れるために派遣した5隻の船が攻撃され、逃げ帰って来ていた。
「ディアス配下の魔法使いが潜入に失敗したというのか?」
「そうです」
「相手も魔法使いか?」
「いえ、相手からの攻撃は魔法では無かった様です」
「どういう状況だ?」
「魔法の結界を破って、金属塊を撃ち込まれた様です」
「それは魔法ではないのか?」
「報告では、魔法ではない、とのことです」
「どういうことだ、ちゃんと説明しろ」
クローンワース三世は苛立っていた。
「その金属塊を撃ち込まれた船に開いた穴を魔法で塞いでいたらしいのですが…」
「それなら問題なかろう」
「その後、雷を撃ち込まれた様です」
「雷、だと?」
「周りの海が、そこだけ嵐になった、と」
「それこそ魔法だろうが!」
「それが…魔法の気配は一切無かった様です」
「全く、話がわからん!分かる様に説明しろと言ったであろうが!」
クローンワース三世は激高した。
配下はひれ伏した。
「ディアスを呼べ!」
「ディアス様は大陸へ向かわれました」
クローンワース三世はやっと少し落ち着いた様に見えた。
「まあいい…ロサーナはひとまず置いておこう」
「まずは大陸だ」
「ディアスは失敗したことが無い男だ」
「ヤツしか頼りにならんな」
その頃、スキーンズの執務室にベッツが呼ばれていた。
道路舗装の仕事に行こうとハンナとシェルビーといっしょに用意をしていたら、コービンに呼び止められた。
ベッツは、スキーンズに呼ばれて少し緊張していた。
(この国の偉い人が私に何の用なのかな?)
ベッツが執務室に入ると、スキーンズは窓の外を見ていた。
髭を撫でながら、立っていた。
「あの…こんにちは…」
「よく来た、まあ座りなさい」
スキーンズは笑顔だった。
「毎日がんばっている様だね」
「はい、エドガーさんがいないので、三人でチカラを合わせてやっています」
「そうか…キミたちのおかげで民も助かっているぞ?」
「それなら良かったです」
ウンウン…と頷きながらスキーンズは本題に入った。
「キミは、魔法使い同士であれば、遠く離れた仲間と連絡を取れるそうだな?」
「そうですね、私はただ、ココロの中で伝えようとするだけですけど」
「それを相手はきちんと受け止められる、ということだな?」
「そうですね、私の方からはちゃんと届いたかどうかはよく分かりませんけど…」
「なるほどな」
「相手から返事が来たら、ああ、届いたんだなって思います」
「ふむふむ…届けられる相手とは誰かね?」
「ベルって子です、私と同じ魔法使いです」
「その、ベルという子は、プホルスの近くにいるのかね?」
「はい、いつもそばにいます」
「よろしい」
ここまで言うと、スキーンズは再び窓の方に向かい、再び髭を撫で始めた。
「その、ベルという子に伝えてくれんかね?」
「何と伝えたらいいですか?」
「…プホルスに、危険が近づいている」
「え…」
「それだけ、伝えてくれ」
「危険って何ですか?」
ベッツは瞳がウルウルしていた。
「それは私にもわからん」
「急いで、伝えてくれ」




