第五十七話:死神ディアスの襲撃
その日は結局、プホルスの拠点でのディスカッションで1日が終わった。
晩ごはんを皆で食べた。
ベルがレシピを考えて食材を用意していた。
グレースはベルに寄り添って、料理を手伝っていた。
牛フィレ肉の上に、ソテーしたフォアグラとトリュフを贅沢にのせ、マデラ酒のソースをかけたもの。
バターをたっぷり使い、シルクのような滑らかさに仕上げたポテトのピューレ。
アスパラガスのソテーは、トリュフの香りを邪魔しない、シンプルな塩味。
「コイツには赤ワインだ」
と、プホルスがとっておきのワインを選んでテーブルに並べた。
酒が入ると、男三人はさらに盛り上がっていた。
大いに飲み、料理に舌鼓を打ち、大声で議論していた。
カイルは上手く立ち回り、グレースの横にベルを座らせた。
今回のキーマンはグレースだ。
グレースのココロに入り込めるのはベルしかいない。
それに、この二人のエネルギー体はそっくりだ。
きっと、ウマが合うだろうし、グレースがベルを気に入ってくれたら突破口が見つかるかも知れない。
翌日、ノーランがまず見たいと言ったタングステンが取れる山へ皆で視察に向かうことになった。
ターナーが作った馬車は軽量ながら大きなスペースが確保されており、六人が乗り込んでも充分な空間だった。
ノーラン、プホルス、エドガーが後席に乗り、前席にグレース、ベル、カイルが乗り込んだ。
大陸の道は綺麗に舗装されており、馬車はスムーズに進んでいく。
これにはエドガーが反応した。
プホルスに、現存する魔導技士たちの人数や技量を確認していた。
エドガーは一通り説明を聞いたあと、ノーランとカイルに噛み砕いて話してくれた。
戦乱が終わったあと、魔導技士たちはまずは道路の復旧に尽力していること。
これから向かうタングステンが取れる山から、素材を運び出すのもそんなに苦労はしなくて済みそうだ、と語った。
そして、ロサーナの森を抜ける道路整備もロサーナ側と大陸側から同時に工事を開始すれば、かなり短期間の工期で済みそうだ、とも語った。
ノーランは喜んでいた。
カイルは、まあ…それはそうなんだろうけどさ…と思いながらグレースの横顔を見ていた。
今の話は聞こえているはずだが、無表情のままだ。
カイルは、ため息をついていた。
こりゃ、先は長そうだな…。
その時、グレースが急に目を見開いた。
ベルも同じように驚いた顔をしている。
カイルは二人のエネルギー体が激しく揺らいでいる様を見ていた。
何だ…?何があった…?
ベルは、グレースの手を握っていた。
グレースは、ベルの肩にそっと手を回していた。
馬車は、目的地に着いた。
ノーラン、プホルス、エドガーの三人は意気揚々と馬車から降り立ち、周りをみわたしている。
グレースはベルに「プホルスに伝えてきなさい」と小声で言っていた。
ベルがプホルスに近付いていっている間にグレースはカイルに耳打ちした。
「ベッツからのメッセージよ」
「プホルスに危険が迫っている、と」
カイルは答えた。
「それは、スキーンズ大統領から、ですね?」
「おそらくそうね」
カイルは周囲を見渡した。
ツルハシを使って石を打っている職人たちをひとりひとり、確認していった。
エネルギー体を発している者はひとりもいなかった。
「グレースさん、どうですか?」
カイルはグレースの魔力探知能力での結果を聞いた。
「今のところ、気配は無いわ」
「でも…魔封石を使っていたら…」
この鉱山には魔封石の断層もあった。
切り出した石にも魔封石の気配が僅かに混じっている。
「油断しないようにしましょう」
グレースの顔がグッと引き締まった。
プホルスは、現場の親方とノーランと話し込んでいる。
ノーランは「ゴミ」として仕分けられているタングステンを含んだ石を持ち、何やら親方に熱弁を振るっている。
プホルスもベルからベッツの「警告」を聞いているはずだが、あまり気にしている様には見えなかった。
やがて、親方の背後に他の職人たちも集まり始め、ノーランの「演説」に耳を傾け始めた。
この「ゴミ」がカネになる、と聞いて職人たちも徐々に盛り上がっている様だ。
その様子を眺めながら、プホルスは満足気な笑顔だった。
ベルはプホルスのそばにいた。
プホルスを守ろうとしているのだろう。
ベルは小さな結界をプホルスの周りに張り巡らせていた。
それを「神の目」で確認し、カイルが安心した瞬間だった。
グレースが突然叫んだ。
「プホルス!危ない!」
グレースは腰の自動小銃を素早く抜き、安全装置を解除しいつでも発射出来る体勢を取っていた。
その瞬間、プホルスのカラダをツルハシの先端部が突き抜けていた。
グレースはプホルスに駆け寄りながら「犯人」を狙った。
「犯人」とおぼしき男は小柄だった。
小柄で、ガリガリに痩せていて、存在感の無い影の様な男だった。
グレースが撃った弾丸をギリギリでかわしながら、凄まじいスピードで後退していく。
やがて「その影の男」も、その気配も、綺麗に消え失せた。
ベルが泣きながらプホルスの名を呼んでいた。
「プホルス!」
「しっかりして!」




