第五十五話:スキーンズの勝負勘
スキーンズの執務室にローリーとレイラが報告にやってきた。
先日の西の海からの不審船の接近と、撃退した過程を説明するためだ。
スキーンズは二人をソファに座らせて、紅茶を振る舞った。
スキーンズの目は爛々と輝いている様に見えた。
そして、おもむろにローリーに質問した。
「で?どんなカタチの船だったのだ?」
「軍艦でもなく漁師船でもなく、隠密行動のためだけににつくられたかのようなカタチでした」
ふうむ…といった顔で左斜め前を見上げる。
「具体的には?」
「海面にへばりつくような低くて鋭いカタチでしたね」
「大きさはどうだった?」
「漁師船の1.5倍くらいの全長でした」
「他には?」
「変な色でした、グレーの様な青の様な」
「海の色に紛れるためか?」
「そうですね、多分ですが」
「他には?」
「帆は見当たりませんでしたね、動力源は魔力では?」
「なるほどな」
スキーンズは頷きながら、紅茶をひと口飲んだ。
「まずはライフルで様子を見たのだな?」
「そうですね、船体の前部に着弾させて浸水させる目的でした」
「何発当てた?」
「僕の弾で8発、他の者から4発です」
「円を描く様に、か」
「そうですね、結果的に大きな穴になっていたはずです」
「なのに、浸水も沈没もしなかった」
「そうです」
「物理的には浸水するはずだな」
「そのはずでした」
ウンウン…と頷きながらスキーンズは何やら考えている様子だった。
「魔力を操れる者がその船に乗っていたのは間違いないだろうな」
「そうですね、船を漕ぐでもなく、帆を立てるでもなく、滑る様に動く船でしたし」
「だが、ライフルの弾が着弾して慌てていなかったか?」
「5隻の船の陣形は乱れましたが、直ちには回避行動は取りませんでした」
「逃げようとしなかった、ということか?」
「そうですね、被弾した船を助けようとしている、と思いました」
「つまり、まだなんとか前に進もうとしてた、ということか?」
「見ていた感じですが、パニックにはなっていない、と判断しました」
「そこで、レールガンを使うという判断をしたのだな?」
「そうですね、ライフルだけだと相手が回避行動に移らなかったので」
スキーンズはレイラの顔を見た。
「レールガンを海面に着弾させたのは今回が初めてだ、どの様な状況になったのだ?」
レイラは目を爛々と輝かせて、やっと私が話せる!という喜びが顔に出ていた。
「着弾直後に海が爆発しました」
「海が…爆発?」
スキーンズはレイラの顔を見ながら不思議そうな顔をした。
ローリーが言葉を継いだ。
「レールガンの着弾の威力で、海面からおよそ30メートルくらいの水柱が立ち、周りの海水が一時的に消失しました」
「そして、着弾後にレールガンの弾が切り裂いた空気のエネルギーが遅れて届き、相手の船をコマのように回しました」
スキーンズはほう…という顔になり、ローリーの説明したシーンを脳内で再現しようと試みている。
「それでやっと、相手は回避し始めたのだな?」
「そうですね、その後しばらくは動かず、しばらくして一斉に回避行動に移りました」
「しばらく動かず、ではなく、何が起こったのか分からなかったのだろうな」
「そうだと思います」
「で…」
スキーンズは再びレイラの方を向いた。
「逃げゆく相手にレールガンをさらに撃ち込んだのはなぜかね?」
ローリーは横目でレイラを見ながら、ほら、怒られるぞ、という顔になった。
「もう二度と来るんじゃねえ!という私の気持ちです!」
「…。」
スキーンズは暫く黙っていた。
ローリーはいたたまれなかった。
突然、スキーンズは大きな声で笑いだした。
アッハッハ!!!
「そうか…二度と来るな、か…」
「そうです!ロサーナ舐めるんじゃねえ!という気持ちを込めました!」
スキーンズは暫く、断続的に込み上げてくる笑いを噛み殺していた。
そして、ローリーに言葉を向けた。
「ローリー、キミの判断は見事だ」
「はっ!」
「そしてレイラ、その心意気やヨシ、だ」
「はっ!」
スキーンズはレイラの方を見て微笑んだ。
「下がってよいぞ」
二人が執務室を出て行ったあと、スキーンズは窓の外を見ながら髭をゆっくりと撫でていた。
その表情は、不敵な笑みをたたえていた。
そして、お付の者にこう告げた。
「ベッツをここに呼んでくれ」




