第四十七話:ロサーナ国王の決断
ノーランは翌朝に早速、スキーンズの執務室を訪ねた。
スキーンズはソファでノーランと二人きりで向かい合った。
カイルが詳細に分析した大陸の素材の話。
石炭、レアアース、タングステン、原油、ゴム。
そして大陸とロサーナを繋ぐ道路の必要性。
スキーンズは腕を組んだまま黙って聞いていた。
「大陸と同盟関係を結ぶという意味か?」
「息子の考えの全てを私が理解している訳ではありません」
「しかし、私は息子の考えを支持します」
スキーンズは頷いた。
「プホルスとの協力関係、か」
「カイルはプホルスを信用しています」
「カイルがそう言うなら、私も信用しましょう」
「スキーンズ師団長にもご検討頂きたいのです」
ノーランは静かに頭を下げた。
その時、執務室の扉がノックされた。
「師団長、国王、マドン様がお呼びです」
スキーンズはノーランを見た。
「ノーラン殿、続きはまた話そう」
マドン国王の私室は、王宮の中心の、やや小高い丘の上にあった。
豪華ではないが趣味の良い調度品に囲まれた、落ち着いた雰囲気の部屋だった。
窓の外には遠くロサーナの街並みが広がっている。
マドンは窓の外を眺めたまま、スキーンズを迎え入れた。
白髪交じりの髪、穏やかな横顔。
しかし、その目には国王としての威厳がたたえられていた。
「スキーンズか、そこに座りなさい」
「はっ」
スキーンズはソファに腰を下ろした。
しばらく沈黙が続いた。
マドンはゆっくりと口を開いた。
「ロジャーズ帝国はなぜ滅んだと思う?」
スキーンズは少し間を置いてから答えた。
「王宮の驕りから、民の心が離れたからだと思います」
マドンは静かに頷いた。
「カウフマン帝国は?」
「権力の暴走です、野心から戦乱を起こした」
「そうだ」
マドンは窓の外を見つめたまま続けた。
「二つの帝国が滅びる様を、余はずっと見ていた」
「彼らは二度も同じ過ちを犯した」
「罪の無い民が巻き添えになった」
「王が全てを握りすぎた」
「民の声を聞かず、有能な者を遠ざけ、自らの権力だけを守ろうとした」
「その末路が、あの有様だ」
スキーンズは黙って聞いていた。
マドンがゆっくりと振り返った。
穏やかな瞳が、スキーンズをまっすぐに見つめた。
「この国も罪を犯した」
「罪の無い魔法使いの民を幽閉した」
「30年間もだ」
「余は前国王を非難したいわけではない」
「悩み苦しむ様を見ていたからな」
「国王として、正しい判断だった」
「だが、この国の民にとっては間違った判断だったと思う」
「余は、入札会でレールガンの威力を見た」
「ロサーナの街の、整った道路を見た」
「この国は、民のチカラで変わりつつあるのだ」
ここで、ロサーナ国王、マドンはしばらく黙った。
そして、スキーンズの目を再び見据えた。
「余はこの国の象徴となる」
「まつりごとはお前たちに任せる」
「畏れながら、マドン様…」
「余の決断だ」
マドンは静かに、しかし揺るぎない声で言った。
「もう、王が国を統治する時代ではない」
「能力のある者たちが、民と共に国を作る時代が来た」
「ロジャーズもカウフマンも、それが分からなかった」
「余には分かる」
スキーンズは深く頭を下げた。
「…承りました」
マドンは再び窓の外に目をやった。
ロサーナの街並みに、朝の光が降り注いでいた。
「スキーンズよ」
「はっ」
「カイルという少年を、大切にせよ」
スキーンズは顔を上げた。
「あの少年は、この国の未来を見ている」
「余には見えないものが、あの目には見えている」
スキーンズは静かに答えた。
「はっ、肝に銘じます」
マドンは微笑んだ。
「スキーンズ、お前をロサーナ王国の初代大統領に任命する」
窓の外で、ロサーナの民が行き交っていた。




