第四十六話:工房での会議
王宮から戻ったカイルとノーラン、そしてタティスの三人は工房の炉の前で顔を突き合わせていた。
ノーランもタティスもカイルの「土産話」に興味津々だ。
「大陸はどうだったか?」
「いろいろ、見てきたよ」
「大陸には何があったんだ?」
「素材の宝庫、だった」
カイルは大陸で見てきたものを順番に話し始めた。
ゴムの木、原油、銅山、レアアース、タングステン、硫黄、石灰岩、そして石炭。
「石炭というのは?」
ノーランが聞いた。
「文字通り石の様に硬い炭で、超高温を実現する燃料だよ」
「現地では薪代わりに使われてたけど、それでは真価は発揮できないんだ」
「上手く燃やせば莫大な熱量を生み出せる」
ノーランの目が光った。
「炉に使えるということだな?」
「今の炉より遥かに高い温度が出せるよ」
ノーランは静かに頷いた。
タティスが口を開いた。
「タングステンってのは何に使うんだ?」
「タングステンは硬度が極めて高い素材だよ」
「鋼鉄より硬いのか?」
「比べ物にならないくらい硬いよ」
「砲弾の先端に使えば貫通力が飛躍的に上がる」
タティスは言葉を継いだ。
「レアアースってのは何だ?」
「磁力を極限まで高められるんだ」
「磁力?」
「レールガンの性能が大幅に上がる」
タティスはしばらく黙っていた。
「カイル」
ノーランが静かに口を開いた。
「お前は何を作ろうとしている?」
カイルは炉の炎を見つめながら答えた。
「民を守るために必要なものを、全部作るつもりだよ」
「全部、とは?」
「武器だけじゃなくて」
「道路、燃料、車両、そしてそれを動かす仕組み」
「全部」
ノーランは炉の炎を見つめた。
タティスはタバコの煙をくゆらせながら目を細めていた。
しばらく沈黙が続いた。
タティスがぽつりと言った。
「とんでもねえ話だな」
「そうだね」
カイルは静かに笑った。
「でも、材料は大陸に全部あるよ」
ノーランはカイルを見た。
「お前の考えは分かった」
「父さんにできることを言え」
カイルは頷いた。
「まずは石炭を手に入れたいな」
「しかし大陸からロサーナまで、どうやって運ぶんだ」
タティスが言った。
三人は黙った。
カイルが口を開いた。
「道路が必要なんだ」
「道路?」
「大陸とロサーナを繋ぐ道路」
「あの森を抜けて、か」
ノーランが静かに言った。
「そうだよ」
「エドガーさんたちだけでは、時間がかかりすぎるんだ」
「魔導技士はエドガーさんだけ、あとのみんなは修行中の身だからね」
「大陸の道路は戦乱のあとなのに既に綺麗に整備されていたんだ」
「太い道路が国中に張り巡らされ、川には立派な橋がかけられていた」
「大陸には技士がたくさんいる」
「彼らに依頼出来れば短期間で道路を整備出来るはずだよ」
三人はしばらく黙っていた。
タティスがタバコを吸いながら言った。
「スキーンズに話すべきじゃないのか」
カイルは頷いた。
「父さんからスキーンズさんに話して欲しいんだ」
ノーランは少し間を置いてから答えた。
「プホルスという男は信用出来る、とお前は判断したんだな?」
「それは大丈夫」
「そうか、お前の判断を尊重しよう」
「ありがとう」
ノーランは立ち上がり、炉に手を当てた。
「この炉を、もっと良くできるな」
「それは間違いないよ」
「それならやるべきだろう」
「そうだね」
タティスはタバコの煙を吐き出しながら言った。
「…俺も話に混ぜろよ」
カイルは二人を見ながら、静かに笑った。
工房の炉が、赤く燃えていた。




