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第四十二話:大陸のお宝

翌朝、カイルは子どもたちの大きな声で目覚めた。


3歳〜10歳くらいの子どもたちが、周りを走り回っている。


その中に、ベッツもいた。


ベッツは遊んであげている、というより完全に本気で遊んでいた。


カイルがベッドから降りると、年配の女性が子どもたちを迎えに来ていた。


「これこれ、お客様が来ていらっしゃるのよ、戻ってらっしゃい」


カイルの方を向き直り、「ごめんなさいねえ」と、申し訳なさそうに言う。


年配の女性は、子どもたちとベッツを引き連れ、隣の建物へ戻っていった。


カイルがリビングに行くと、プホルスがコーヒーを飲んでいた。


「いよう、カイル、よく眠れたか?」


「はあ、まあ…」


自分は酔っぱらって早い時間から寝ていたくせに…。


と、カイルが思いながら席に着くと、ベルが紅茶を持ってきてくれた。


「おはようございます、カイルさん」


柔らかな表情で、機嫌が良さそうに見えた。


「おはようございます、ベルさん」


「なんだあ?ベル、カイルには優しいじゃねえか」


「お客様ですよ?当たり前でしょ」


ベルはいつもの無表情な顔をプホルスに向けた。


カイルはベルに質問してみた。


「ベルさん、さっきの子どもたちは…」


「私たちは、孤児院を運営しているのです」


「旧ロジャーズ帝国と旧カウフマン帝国の戦争で大量の孤児が生まれました」


「各地に孤児院を作って、子どもたちを保護しています」


そこにプホルスが割って入った。


「子どもたちは20年後、30年後の未来を作る民だ」


「王室どものくだらねえ争いで親を失った子どもたちだからな」


「人作りこそ、国作り、だ」


「そう思わねえか?カイル」


カイルはプホルスという男の度量の大きさに感銘を受けていた。


やり方は乱暴だったのかも知れないが、プホルスの「哲学」は一貫している。


「そろそろ朝メシを頼むぜ、ベル」


そう言いながら、プホルスはタバコを吸いに外へ出て行った。


ベルは、焼きたてのデニッシュと、オムレツをテーブルに並べた。


カイルは、以前エドガーに作ってもらった朝食を思い出していた。


デニッシュからふんわり立ち昇るバターの香り、オムレツからはチーズとハーブ。


カイルは、自然と笑顔になった。



子どもたちと夢中で遊んでいるベッツを孤児院に置いて、三人で馬車に乗り込んだ。


「カイル、お前に見てもらいてえモンがあるんだ」


プホルスはそう言ったきり、居眠りを始めた。


カイルは馬車が走る道路を見ていた。


道路脇の民家や建物は戦争の傷跡がまだ色濃く残っているが、道路は整備されている。


カイルが景色ではなく道路を見ているのに気付いたベルは、説明を加える。


「復興の第一歩として、まず道路を魔道工学士に復旧してもらいました」


「人やモノの往来がスムーズに出来ないと、復興もままなりませんからね」


「彼らには、建物は後回しにしてまずは道路の復旧をお願いしてあります」


実に合理的だ。


カイルは感心していた。


しばらく走ると、道の両側に見慣れない木々が現れ始めた。


高さは30メートルに達しているものもあり、灰褐色や明るいグレーの樹皮には無数の傷がある。


その傷は、人為的に付けられたものだ。


目覚めたプホルスが呟く。


「着いたか」


プホルスはその謎の大木に近づき、樹皮に付けられた傷を触った。


ネバネバした樹液が指に付着している。


プホルスはこの大木について説明し始めた。


「この木はここら一帯に大量に生えててな、生命力の強い木だ」


「このネバネバを布に塗ると雨を弾くんだそうだ」


「あと、このネバネバを溜めて、そこに足を突っ込めば即席の靴の出来上がりだ」


「カイル、コイツのもっと良い利用法はないか?」


カイルは、プホルスの指先の「物体」と、大木を「神の目」で凝視した。


粘度、弾性、組成を瞬時に把握した。


間違いない、これは「ゴムの木」だ。


(ポリイソプレン…天然ゴムだ)


加硫処理を施せば弾性と耐久性が飛躍的に向上する。


熱にも耐えられる。


天然ゴムの利用法は多岐にわたるが「タイヤ」がまず浮かんだ。


カイルがターナーに設計を依頼しようとしていた魔力を動力とする自動車。


軍事面で言えば大型兵器を移動させるためには剛性の高いタイヤは必須になる。


「これはお宝ですよ、プホルスさん」


「防衛力の強化にも、民の暮らしを便利にすることにも利用できます」


プホルスは目を細めながら軽く頷いた。


「よし、次の場所に行こう」


馬車はゴムの木の森を抜け、広大な平野部に入っていった。


さっきの樹木の群生地とは打って変わって、植物があまり生えていない。


しばらくすると、辺りに異臭が漂い始めた。


御者の男が鼻を覆った。


「この辺りは風向きが悪い日は遠くの村までこの臭いが届きます。


「悪臭が流れてきて、住民が困っています」


「呪われた土地と呼ばれていまして」


道の脇に黒くぬかるんだ地面が広がっていた。


地面のあちこちから黒い液体がじわじわと滲み出ている。


周囲に草木は生えていない。鳥も寄り付かない。


ベルが顔をしかめた。


「臭いですね」


プホルスも鼻を覆いながら言う。


「民はここには近づかん」


「作物も育たんし、家も建てられん」


「移住した者も多い、捨てられた土地だ」


カイルは馬車を降り、黒い地面に歩み寄った。


しゃがみ込み、指先で黒い液体に触れた。


粘度を確かめる。神の目が組成の解析を始めた。


(炭化水素の混合物…間違いない、原油だ)


カイルの頭の中で次々と展開される。


精製すれば燃料になる。


魔法以外の燃料もあった方がいいな。


潤滑油も作れるな…機械の摩擦を減らし、耐久性を上げる。


硫黄分を取り出せば火薬の原料にもなる。


精製の過程で出る重質油は道路の舗装材にも使える。


(ゴムと原油が両方ある。道路、タイヤ、燃料、全部この大陸で賄える)


カイルは立ち上がり、プホルスの目をみながらニヤリと笑った。


プホルスもニヤリと笑う。


「じゃ、次の場所だ」


次の場所は鉱山だった。


山肌が青緑色に変色した岩盤が露出している。


地元の鉱夫たちが黙々と岩を砕いている。


鉱夫の親方が言った。


「銅はそこそこ取れますが、値段が安くて儲かりません」


「それに、銅以外の混じりものも多いので手間ばかりかかって…」


カイルは露出した岩盤に近づき、手を当てた。


神の目が鉱脈の広がりを把握する。


(純度が高い…これだけの埋蔵量があれば)


銅は電気を通す。


魔力は電気に近い伝導特性を持っている。


レールガンの電磁加速に銅を利用すれば、さらに性能が上げられるかも知れない。


砲弾の薬莢、導線、電気系統の配線。


全てに銅が使える。


魔封石と組み合わせると様々なバリエーションの「弾」が作れる。


そして、鉱夫の親方が「混じりもの」として分別してある物質も見せてもらった。


銅から弾かれた「ゴミ扱い」の物質の正体はレアアースとタングステンだった。


カイルは思わず「ふふっ」と声を上げた。


「この混じりものの方がさらにお宝ですよ、親方」


鉱夫の親方はポカーンとした顔をしていた。


プホルスは、カイルを見ながら小さく頷いた。


「今日はあちこち回ってそろそろ日も暮れそうだ、宿に行くか」


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