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第四十一話:大陸への小旅行

カイルが、ベッツと二人で大陸のプホルスの元へ向かう、と言うと周りが騒然となった。


スキーンズ師団長は、まだプホルスを信用し切れていなかったし、コービンも心配していた。


グレースも難色を示していた。


ハンナがカイルを見る目を見て、エドガーは背筋が凍っていた。


我が娘から立ち昇るエネルギー体の出力に恐れを感じた。


レイラは言うまでもなかったが一応、記しておく。


タティスはノーランにボソッと言った。


「あんな可愛い子と二人きり、だぜ?」


「プホルスの策略じゃねーのか?」


「ハニトラかも知れねーぞ?」


ノーランは落ち着いていた。


「任務の一環だ」


「俺は何も心配していない」


マリアは、密かにカイルとハンナが結ばれることを願っていたので、心配顔だった。


ロサーナに残る者たちの胸に様々な波紋を残しつつ、ベッツとカイルは旅立って行った。


カイルは頭の中でプホルスとどういう話に持っていけばいいかシミュレーションを繰り返していた。


ベッツは、終始ご機嫌だった。


綺麗な花や、美味しそうな木苺を見つけるたびに「うわあ…」と、目を輝かせていた。


カイルはベッツが何かを口に入れようとするたびに「神の目」で毒が無いかどうかだけチェックしていた。


森の奥深くまで到着し、道らしい道が無くなった。


「魔法無しだと大変だったんだよお…」


「でも今日は魔法使えるから楽だよ」


ベッツは、魔法で淡い桜色の球体を作り、カイルをその中に入れた。


自分は球体の上に乗り、球体を森の木の上に浮かせた。


木の上をポーン、ポーン、と跳ねる様に森の木の上を進んで行く。


1時間もしない内に、国境の森を越えていた。


プホルスとベルが馬車で待っていた。


ベルは、呆れた声で言った。


「あの子の魔法の使い方…」


プホルスは笑いながら言った。


「ベッツらしくていいじゃねえか」


球体の中でカイルはカラダがクルクル回っていた。


馬車の真横に到着すると、ベッツは淡い桜色の球体を消した。


「カイル、着いたよお…カイル?」


カイルは目が回っていた。


プホルスはカイルを抱き抱えると、馬車の後席に乗せた。


カイルが気がつくと、国境の森が見渡せるプホルスの拠点のソファに寝かされていた。


ムクっとカイルが起き上がると、ベルが紅茶を持ってきてくれた。


「あ…ありがとう」


「私はベルといいます」


「初めまして、カイルです」


「球体に放り込まれて大変でしたね」


「あ…いやあ…歩くより楽でしたよ」


「もっと楽な魔法、いくらでもあるのに」


「…。」


森を眺めながらタバコを吸っていたプホルスが戻ってきた。


「おう、カイル。ようこそ大陸へ」


「プホルスさん、お久しぶりです」


「ロサーナを出るのは初めてか?」


「そうですね、これが初めてです」


「まあ、せっかく来たんだ、楽しんでいけよ」


「はあ…」


いきなりシビアな話し合いが始まると思っていたカイルは拍子抜けしていた。


このベルって子の魔力はグレースさんと遜色は無い。


東の島国の異変に気付いてないとは思えない。


プホルスはあくびをしながらベルに話しかける。


「腹減ったな、メシにするか?」


「そうですね、もう用意は出来ています」


牛肉を赤ワインで煮込んだ料理がメインで、バゲットやジャガイモなどが並べられた。


プホルスはカイルに酒を勧めてきた。


「お前、ジジイなんだから酒飲めるだろ?」


「今は飲んでないですよ」


「タバコも吸ってたんじゃねーのか?」


確かに、前世では酒もタバコもやっていた。しかし、今は少年の身だ。


「それはそうとプホルスさん…」


カイルは「本題」を切りだそうとした。


しかし、プホルスは急にしおらしい顔になり、語り始めた。


「お前、エドガーにやりがいのある大事な仕事を斡旋してくれたんだってな、感謝してるぜ」


プホルスが急にしんみりし始めたので、カイルは「本題」を一旦引っ込めた。


「ベッツもエドガーといっしょに仕事させてもらってんだろ?」


「そうですね」


「エドガーと、エドガーの娘と、ベッツがいっしょに頑張ってんだよなあ」


「そう、ですね…」


「俺ぁ…嬉しいぜ…」


プホルスの瞳はウルウルしていた。


この人は酒が入ると泣き上戸なのかな。


一方、ベルは冷静沈着だ。


エネルギー体の波動もグレースによく似ている。


やっぱ、エネルギー体の波動と性格って相関関係があるのかな…。


ベッツはロサーナにしかない木苺の話や、今エドガーとしている道路整備の話を一生懸命している。


ベルはテキトーに相槌を打ちながら黙々と食事をしている。


ちょっと待て…これじゃあ、本当に遊びに来てるみたいじゃないか。


東の島国の脅威について話し合うためにここに来たはずなのに。


やがて、プホルスは寝てしまった。


ベッツも眠そうにしている。


こうなったら、ベルに聞くしかない。


「あの…ベルさん、ひ」


「東の島国の件で来られたんですよね」


「大陸もロサーナも、あの島国からは距離は変わりませんからね」


「グレースさんは気付いているはず」


「エネルギーは下から吹き上がり、それを上から抑え込む動きを繰り返している」


「でも、そこまでしか分かりません」


「魔法使いなのか?違う何かなのか?」


「それすらも分かりません」


「ただ、今は大きなエネルギー反応は観測されるものの、島の外にそれが向かう気配は無い」


「私が把握しているのはここまでです」


「…。」


「カイルさんが持っている情報も、似た様なものでは?」


「…そうですね」


「あのエネルギーがこちらに向かえば、今の私たちでは太刀打ち出来ない」


「…。」


「でも、こちらに向かってくると決まっているわけでもない」


「…。」


「可能性は、ある、でも来ない可能性も、ある」


「…。」


「その中で、やるべき備えとは何か」


「それを話し合いに来ました」


「もしあのエネルギーが島の外に出てきたら、大陸もロサーナも滅ぶ」


「それを防ぎたいんです」


「あなたは、魔力を使った兵器を作り出しました」


「はい」


「魔力をそのまま相手にぶつけるより遥かに威力を向上させましたね」


「そうですね」


「そのアイデアをさらにブラッシュアップして、大陸とロサーナ全域に配備する」


「…。」


「どちらが先に襲われても、そこで食い止める体制を作っておく」


「そうですね」


「全ては、民の平和な暮らしのためです」


「そうですね、その通りです」


「プホルスは大事な話をなかなか切り出さない」


「そうですね…あ」


「事実ですから」


そう言ったあと、ベルはカイルに真正面から向き合い、深々と頭を下げた。


「お願いです、チカラを貸してください」


「こちらこそ、協力していきましょう」


顔を上げたベルは、微笑をたたえた美しい瞳でカイルを見つめていた。



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