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第四話:進化する魔法の炉

カイルは裏庭の炉を再度改造し始めた。


タティスも手伝い、炉はさらに大きく、そして今までより複雑な補機類が取り付けられていった。


カイルはタティスにこう説明した。


剣の芯材に軟鉄、その周りを超硬度鋼で覆って剣のしなり、強度、軽さ、斬れ味を実現する。


タティスはカイルの言っている意味は直感的には理解出来たが、具体的にそれをどう実現するのかはサッパリ理解出来なかった。


まずは大型炉が完成した。


大型炉の内部は二つに分かれており、それぞれに異なる補機類が取り付けられている。


タティスはカイルに質問した。


「カイル、左右の炉に付けてあるふいご、あれはそれぞれカタチが違うよな?」


「あれは何故なんだ?」


カイルは淡々と答える。


「空気の流量を左右で変えて、酸素濃度を制御するんだよ、タティスさん」


「片方の炉は酸素を奪って鉄を取り出して、もう片方は炭素を燃やして硬度を調整するんだよ。」


タティスは肩をすくめて苦笑いした。


それから、2人は「材料」を集めに出かけた。


まずはあの、土砂崩れの場所から「黒い石」を集めた。


力持ちのタティスはカイルの3倍くらい、麻袋に詰めていた。


「あとはバナジウムとフラックスだな…」


カイルは独り言を呟いている。


「それと…冷却油も改善しないと…」


「まだまだやるべき事はたくさんある」


2人は大量の「黒い石」を工房に一旦置いて、残りの材料を探す仕入のための小旅行に出かけることになった。


小旅行に出かける前、ノーランが金貨を1枚、カイルに渡そうとしたがカイルは固辞した。


代わりに銅貨を10枚貰った。


カイルはこう言った。


「この国の中を探すだけだから路銀はそんなに要らないよ」


「金貨は、この工房の為に使って」


「あと…バルカス商会との取引を考え直してみて」


「じゃあ、行ってくるよ、父さん、母さん」


ノーランとマリアは、カイルの姿が見えなくなるまで見送っていた。


その日の夜、ノーランは、カイルが仕事机の上に置いていった数枚の羊皮紙を手に取った。


仕事机の上にかけてあるオイルランプの火の下でカイルが書いたレポートを開く。


その冒頭には、バルカス商会から仕入れている鉄鉱石の成分分析結果が書かれていた。


硫黄とリンの含有率が基準値を30%超過している。


これは、父さんの炉の火造り技術ではカバーできない「材料自体の欠陥」。


この国一番の腕を持つ鍛冶屋、ノーランの腕をもってしても、だよ。


ノーランは息を呑んだ。


近年、どれだけ魂を込めて打っても脆い穂先しか作れない自分に絶望していた。


それを、カイルは「父さんのせいじゃない」と数字で断言したのだ。


次に記されていたのは、バルカス商会との契約がいかに不当かという収支シミュレーションだった。


歩留まりの悪さは父さんのせいじゃない。


材料が悪いのに、不良品を値引きの強要で補填させる構造は職人の技術の搾取だよ。


自分の不器用な誠実さが、結果として愛する家族を苦しめることになっていた。


工房の職人たちに充分な報酬を渡せないことにも悩んできた。


改めて突きつけられたその事実に、ノーランの胸に鋭い痛みが走った。


レポートの最後には、カイルから父への信頼の言葉が刻まれていた。


「僕は、父さんの打つ鉄が世界で一番好きだ」


「だから、もう、自分を責めないで」


「父さんはこの国一番の職人なんだ」


「僕は鍛冶屋のノーランの息子であることを誇りに思っているよ」


ノーランの目から、熱いものが溢れた。


レポートを読み終えたノーランはしばらく、レポートを持ったまま動かなかった。


やがてゆっくりと立ち上がり、自分の古びた、しかし手入れの行き届いた金槌を愛おしそうに撫でた。


その目には、誇り高き鍛冶屋の輝きが戻ってきていた。


ノーランは、独立してこのノーラン武器工房を立ち上げた頃を思い出していた。


マリアと、親友のタティスと三人で立ち上げた。


あの頃の自分も妻も、親友も、みんな若かった。


王宮主催の武器見本市に自分が打った刀剣を出品するのが夢だった。


そこで師団長達に認められたら、大きな注文も貰えるだろう。


そうすれば、このノーラン武器工房はロサーナ王国いちの工房になる。


その為に腕を磨いた。


タティスとチカラを合わせてガムシャラに鉄を打ってきた。


それなのに…今の自分はどうだ。


安い仕事しか請けられず、工房の経営は火の車だ。


妻にも、仲間たちにも、息子にも、希望を与えられていない自分を恥じた。


もう一度、あの頃の誇り高き鍛冶屋魂を取り戻さないといけない。


大きくなった息子に、教えられた。


カイルは、自慢の息子だ。


そして、逞しくなった。


息子といっしょに、鉄を打とう。


そして、魂を燃やそう。


ノーランは、カイルのレポートを丁寧に畳み、仕事着の懐に深くしまい込んだ。


そして、カイルが旅から戻ってくるまで、懐から出しては何度も読み返した。





御覧頂いた皆様に心より御礼申し上げます。

初回投稿から毎日投稿を続けておりますが、最終話まで毎日投稿で走り切るつもりです。

常時、原稿ストックを40本以上キープして公開を続けます。

「エタりません、完結までは。」

最終話までお付き合い頂けましたら幸いです。


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