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第三十四話:ロサーナ経済の勃興

カイルは、鼻と上唇の間にペンを挟んで考え事をしていた。


これからは兵器だけじゃない、まずは国内経済を盛り上げていく必要がある。


それには人とモノの動きを活性化させる必要があるなあ…。


ゆくゆくは、他国との通商も必要になってくるだろう。


お父さんの責任も重くなったし、兵器だけ考えてたらいいって訳にもいかないな。


そこに、エドガーがやってきた。


左脇に、分厚い書物を抱えている。


「カイルくん、ちょっといいかい?」


「あ、いらっしゃい、エドガーさん」


「あれから、私に出来ることを考えてみたんたが…聞いてみてくれるかい?」


「大歓迎ですよ!エドガーさん!」


カイルはエドガーに椅子を勧めて座って貰った。


「この国の経済を考える際に、最も弱いのは物流だ」


「人と、モノの流れですね?」


「まずは道路、だろうね」


「凸凹道しかありませんからね」


「国内全域を、楽に移動出来る環境が必要だと思う」


「道路整備から始めるべきだとお考えなんですね?」


「そうだ。そこを整えてから、橋や港の整備を進めていく順番で良いと思う」


「なるほどですね」


「そのための技術を書いた本がこれだ」


「かなり古い本ですね」


「私が若い頃に使ってた本だからね」


そう言って、エドガーは笑った。


「魔法使いの民なら、この本から学べば道路を作れる様になるはずだ」


「向き不向きはありますか?その人ごとに魔法の波動が異なりますが」


「特定の魔法使いしか使えない、という特殊なものじゃない、比較的汎用性のある魔法だと思う」


「そうなんですね」


「敢えて言うなら、本を読み込むスピードが早くて魔法の総量の大きな、パワーのある魔法使いが向いてるかな」


カイルは真っ先にベッツの顔が浮かんだ。


「エドガーさん、こういう専門書を、他にもお持ちですか?」


「ああ、私が勉強した範囲の物は全て残っているよ」


「これから、エドガーさんのチカラを借りないといけないことがたくさんあります」


「ああ、私もこの国の役に立ちたいんだ」


「お父さんも王宮から大役を任されちゃって大変なんです、相談に乗ってあげてもらえますか?」


「ノーランさんにはずーっとお世話になってる身だ、全力で協力させてもらうよ」


「ありがとうございます!」


その夜、カイルはノーランに全てを話した。


エドガーの苦悩、北の脅威の消滅、エドガーの能力、ロサーナ経済を活性化させるプラン、なるべく分かりやすく説明した。


ノーランは、涙を流しながら聞いていた。


エドガーの辛さに気付いてやれなかった、と悔いていた。


そして、この国の発展に協力したいというエドガーの想いに感動して、また泣いていた。



ノーランは、そのままエドガーの元に歩いて行った。


あ、夜中なんだけどなあ…明日でも…と、カイルは思いつつ、ノーランに任せようと思った。


カイルは、翌朝にハンナからエドガー宅での顛末を聞いた。


ノーランとエドガーはお互いに号泣し、抱き合い、この国の未来を語り合い、大いにワインを飲み、笑い合っていたらしい。


「それで帰って来なかったのね!」


「今日から顧問の仕事なのに!」


マリアは呆れていた。


マリアがノーランを起こしにエドガー宅に向かったあと、カイルはハンナをそっと見た。


自分が魔法使いだったって聞いて、ハンナはショックを受けてないかなあ…。


ハンナは、カイルの目を見てキッパリした口調でこう言った。


「あのね、あたし、魔法使いとして一級品らしいのよ、パワーが凄いんだって」


「だから、お父さんの仕事を手伝うわ、お父さんの役に立ちたいの」


「ノーランおじさまが、お父さんと私に仕事を頼みたいんだって」


ハンナは、メンタルが鋼だった。



ノーランは酒臭い息を吐きながら、エドガーと肩を組んで戻ってきた。


「よしっ!技術顧問の命である!エドガーくん!キミの能力をロサーナへ捧げるのだ!」


「はっ!ノーラン顧問!」


その後二人でガッハッハ!と笑っていた。


うわあ…そろそろ王宮から迎えの馬車が来るのに…マズいなこりゃ…。


カイルは困っていた。


ツカツカ、とハンナがノーランとエドガーに近付く。


二人の手を取り、エネルギーを発した。


ノーランとエドガーは電気ショックを受けたかの様にブルブル震えていた。


その後、あれ?という顔で我に返っていた。


「ノーランおじさま?そろそろ王宮の馬車が参ります」


「あ!もうそんな時間か!急いで用意しないと!」


「お父さん?お父さんも王宮に行くんでしょ?」


「あ、服を着替えないと!」


二人はバタバタとそれぞれの家に戻った。


カイルは思った。


怖い。



ノーランはエドガーを連れて王宮へ向かった。


カイルは今日は王宮に行く用事は無かったが、ちょっと心配だったので付いて行くことにした。


エドガーは三冊の専門書を持参していた。


三人で、師団長室に入った。


グレースとコービンも同席していた。


ノーランはロサーナ経済発展論をぶち上げ、それを実現するにはこの男のチカラが必要なのです、とエドガーを紹介した。


スキーンズ師団長はピンと来ていない顔をしていたが、グレースの目は爛々と輝いていた。


「そちらの、ご持参頂いた本を見せて頂いてもいいかしら?」


「はい、どうぞ」


エドガーが本を渡すと、グレースは凄まじいスピードで三冊を読み切った。


ページは、魔法でめくっていた。


そして、こう言った。


「この本は、今や幻の本と呼ばれているものです」


「ロジャーズ帝国とカウフマン帝国の戦争でほとんどが消失してしまいました」


「カウフマン帝国の技術者達が長い時間をかけて練り上げた技術を体系的にまとめたものです」


「先ほど、ノーランさんが言っていた内容を実現するには、この本が必要不可欠ですね」


スキーンズはやっとイメージ出来た様だった。


「つまり、道路を整備すれば人や荷車の通行が楽になる、ということだな?」


エドガーが言葉を継いだ。


「そうですね、まずは道路を整備し、その次に川に大きな橋を架け、港を整備します」


「民の商業活動を活発化し、万一の際の軍事力の展開も素早く出来る様になります」


スキーンズは頷いた。


「まあ、ノーラン殿に一任してあるからな、ノーラン殿が必要、というなら私はかまわん」


「魔法に関することはグレースに任せる、ノーラン殿と三人で合議してくれ」


こうして、エドガーは王宮職員となった。










御覧頂いた皆様に心より御礼申し上げます。

初回投稿から毎日投稿を続けておりますが、最終話まで毎日投稿で走り切るつもりです。

常時、原稿ストックを40本以上キープして公開を続けます。

「エタりません、完結までは。」

最終話までお付き合い頂けましたら幸いです。


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