第二十三話:兄弟の葛藤
エドガーは足早でもなく、ゆっくりでもなく、普通の速度で歩を進める。
プホルスは、やや距離を取ってエドガーについていく。
やがて、川が見えてきた。
土手沿いの道をエドガーは歩いていく。
やがて、川にかかった橋が見えてきた。
エドガーは土手を川に向かって降りはじめた。
プホルスも、それに続く。
河原まで降りると、エドガーは橋の下に歩いていく。
そこで、足を止めた。
30年振りに、兄弟が向き合った。
エドガーは、黙っていた。
プホルスも、黙っていた。
この30年間という時間を、黙ってすり合わせている様だった。
最初に口を開いたのはエドガーだった。
「プホルス…お前のカラダには血の匂いが染み付いている」
「それに、魔封石で厳重にカラダを覆っている様だが、殺気立った魔力が漏れているぞ」
川のせせらぎの柔らかな音が周りに響く。
鳥の声も聞こえてくる。
「ベルの力作だったんだがな、兄貴には通用しなかったか」
プホルスは苦笑いしていた。
「お前のやっていることは間違っている」
「人を殺すことで平和は作れない」
エドガーは強い口調で言った。
プホルスは、暫く黙っていたが、静かな声でこう言った。
「少しの間、俺の話を黙って聞いてくれないか?」
エドガーは黙っていた。
「俺は、真面目に働いて、妻と子どもと幸せに暮らしていたんだ」
「兄貴にも祝って貰ったよな?」
「絵に描いた様な幸せってヤツだ」
「そんなささやかな幸せを…」
「ぶち壊したのは誰だ?」
「王室の腐った連中と、ソイツらが雇っている兵士たちだ」
「相手が気に入らないからって、ヤツらは兵士を使って巨大なチェスを始めた」
「盤面は大陸全体、巨大な盤面だ」
「チェスの駒が動くたびに、無垢の民が巻き込まれて命を落としていった」
「俺の家族も死んだ」
「これを止めるにはチェスの勝負を終わらせるしか無かった」
「チェスのルークもビショップもナイトもポーンも…そして、キングとクイーン」
「全部消したらチェスは終わった」
「強制終了だ」
「無垢の民が巻き込まれることもない」
「何が問題なんだ?」
エドガーが、静かに口を開いた。
「じゃあ、俺の話も聞いてくれ」
「俺は、お前を止められなかった」
「お前の哀しみを知っていたからだ」
「でも、だからこそ止めるべきだった」
「魔法使いは人殺しになった」
「お前やお前の仲間は罪人として投獄された」
「それだけじゃない」
「この国の魔法使いは皆、幽閉されている」
「巨大な壁に取り囲まれた場所から出られない」
「自由も、尊厳も、奪われている」
「魔法使いは人殺し、だからだ」
「この国の魔法使いは人殺しなんかしていないのに、だ」
「私はこの場所に移り住んでしばらくしてそのことを知った」
「ココロが痛んだ」
「申し訳ない、という気持ちで一杯だった」
「本来なら、私も自ら申し出て、壁の中に入るべきだった」
「しかし、妻が身ごもっていた」
「妻は魔法使いではなかった」
「私が壁の中に入ったあと、妻と生まれてくる子どものことを思うと、決心出来なかった」
「私は弱かった」
「そのまま、魔法使いであることを隠して、生きてきたのだ」
プホルスは、黙ってエドガーの言葉に耳を傾けていた。
そして、少し柔らかい声でこう言った。
「子どもは、無事に生まれたのか?」
「ああ、子どもは無事だった」
「子ども…は?」
「妻はその後、病気で亡くなった」
「そうか、それは辛かったな」
「子どもは男の子か?女の子か?」
「女の子だ」
「そうか…」
「妻によく似てる」
「可愛いだろうな」
「ああ、可愛いさ」
「娘がいてくれるなら、いいじゃないか」
この言葉には、エドガーは返す言葉が見つからなかった。
遠くから、エドガーを呼ぶ声が聞こえた。
土手の上から、ハンナが手を振っていた。
右手には買い物カゴを下げている。
プホルスは、目を細めてハンナを見た。
「俺の姪っ子だな」
「綺麗な娘だ、兄貴に似ている」
プホルスの目には、ハンナのカラダを覆うエネルギー体が見えた。
プホルスは、カラダを反転させ、ハンナとは逆方向に歩き出した。
御覧頂いた皆様に心より御礼申し上げます。
初回投稿から毎日投稿を続けておりますが、最終話まで毎日投稿で走り切るつもりです。
常時、原稿ストックを40本以上キープして公開を続けます。
「エタりません、完結までは。」
最終話までお付き合い頂けましたら幸いです。




