第二十話:魔法を溜める器
カイルは毎日、ハンターの家の中の小さな工房でキャパシタの試作品作りに取り組んでいた。
入れ替わり立ち代り、魔法使いの人々がハンターの工房を訪れ、協力してくれる。
カイルは電力と魔力の特性の違いを把握していき、魔力を溜めるための構造を少しづつ考案していった。
電力とは異なり、魔力は自律してそこに留まらせることが出来る。
これは大きなメリットだった。
デメリットとしては魔力特有の「揺らぎ」が存在し、発射エネルギーにまとめるのが難しい。
つまり、この「揺らぎ」さえ克服出来れば電力より遥かに扱いやすく貯蔵も可能になりそうだった。
技術が完成すれば、レールガンの様な大型兵器だけでなく、本来なら火薬を使う小型兵器にも転用出来そうだ。
コンデンサという「ダム」でせき止めた状態で魔力をパンパンに込める。
それを砲身の中の「レール」に一気に放出する。
コンマ何秒以下で莫大なエネルギーを受け止めた「弾」は、蹴飛ばされた様にレールから発射される。
「溜める」技術は既に完成していた。
あとは「揺らぎ」を制御する技術だ。
カイルは閃いた。
「渦巻き」はどうか?
溜め込んだ魔力をノズルに向けて渦巻き状に流す形状を試してみた。
正解だった。
渦巻きの様に流れる過程で、揺らぎが整っていき、綺麗にエネルギーが集中した。
「これだ!!」
カイルの声に周りの人々が沸く。
技術的な方向性は固まった。
実験から実用化に向けた取り組みにフェーズが変わる。
技術的な「完成」は、もうすぐだ。
カイルが工房を空けて王宮や魔法使いの街に通い始めてから二週間が経とうとしていた。
ハンナはノーランの工房に毎日顔を出すのだが、いつもカイルの姿は無い。
マリアが「またお出かけよ」と言うたびにハンナの眉間の皺が深くなっていった。
二週間後、ため息をつきながらハンナがカイルの机に目をやると、そこにカイルがいた。
カイルは、ニコニコしながら何やらペンを走らせている。
ハンナが凄い勢いでカイルに駆け寄る。
「カイル!!」
カイルは椅子から飛び上がった。
声の方向に目を向けると、凄まじい勢いで魔力が溢れかえっている。
魔力は本来は音はしないのだがカイルの脳には炉の炎に似た「ゴォォォ!!」という音が聞こえていた。
揺らぎが凄い。
そうだ、これくらい激しい揺らぎでも綺麗に整流できないといけないなあ…。
溝の入れ方をもっと工夫しないと…。
タティスはハンナの「怒声」に驚き、カイルとハンナを交互に見ていた。
しかし、猛烈に怒っているハンナを目の前に「いつもの思案顔」になっているカイルを見て、チカラ無く首を横に振った。
その後、タティスは「閃いた顔」になった。
工房の奥に行き、小声でマリアに話しかける。
「あの、王室から貰った外国のお菓子があったろ?あれまだあるか?」
マリアは甘いものを一切口にしないタティスがいきなりお菓子の話をし始めたのでキョトン、とした顔で答えた。
「ええ…包み紙もまだそのままよ」
「どうしたの?タティス」
「いいからソイツを出してくれ!」
マリアが差し出したお菓子が入った袋を引ったくる様に受け取り、ハンナとカイルに近付く。
「いよぅ、ハンナじゃねーか」
「カイルはハンナと会いたくて会いたくて仕方なかったんだよ」
「仕事だから我慢してたけどな」
ハンナがタティスに視線を移した瞬間、タティスはカイルの脇腹に自らの肘を打ち込んだ。
カイルは呼吸が出来なくなった。
「コイツはな、カイルがハンナに食べさせたいって、取っておいたもんだ」
タティスはハンナにお菓子の包みを渡す。
「袋を開けてみな?」
ハンナはお菓子の包み紙を丁寧に開いた。
そこには、大陸の一流菓子職人が表現した美しい造形と色彩が広がっていた。
うわぁ…と、ハンナの表情がパアっと明るくなる。
タティスは畳み掛ける。
「俺がカイルに食わせろ!って何度も頼んだんだがな…」
「いや!ハンナに食べさせたいんだ!ってよぉ…絶対に譲らねえんだぜ?」
「なあ!?カイル!?」
カイルはまだ呼吸出来なかったが、涙を浮かべながら必死に頷いた。
ハンナは、ウルウルした瞳でカイルを見つめた。
カイルの瞳も、痛みでウルウルしていた。
「カイル…ありがとう…」
タティスはハンナからは見えない角度からカイルの背中にパンチをお見舞いした。
カイルは言葉を発することなく、ハンナの目をウルウルした瞳で見つめ続けた。
ご一読いただき、ありがとうございます。作者の緒方光次郎です。
本作は現在、第65話まで書き進めており、完結までのロードマップは既に固まっております。毎日20:10に必ず更新いたしますので、どうぞ安心してお付き合いください。
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次回も、明日の20:10にお会いしましょう。




