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第十三話:神の目と魔法使い

グレースとカイルは、第二師団の馬車で王宮を出て、南に向かった。


街を出て暫く馬車を走らせる。


グレースは、黙っていた。


カイルは、王宮でのグレースの言葉を反芻していた。


「私と同じチカラを持つ人はいるわ」


「自由の身では、ないけどね」


つまり、魔法使いはグレース以外にも居るけど、囚われの身、ということか。


なにか罪を犯したのか?


魔法使いだから、という理由でか?


それなら、なぜグレースは王宮にいて軍事顧問なんだ?


カイルはいろいろ確認したいことがあったが、グレースが口を開くのを待っていた。


そびえ立つ巨大な「壁」が見えてきた。


壁は一部だけではなく、万里の長城の様に横にずっと続いている。


巨大な建築物だ、この時代にこれだけのものを作るのは至難の業と思われた。


壁の中央に、大きな「扉」があり、その横には「兵舎」がある。


馬車はその「扉」の前に止まる。


門番の兵士はグレースの顔を見て敬礼し、扉を開く準備をする。


やがて、扉が開いた。


ギィィ…と、重い扉が音を立てる。


馬車は、巨大な壁の中に進んで行く。


カイルは不思議な光景を見た。


「刑務所」の様な施設を想像していたのだが、そこは「普通の街」だった。


ただ、街の周囲は巨大な壁に囲まれているが。


それ以外は全く普通だった。


田畑もあり、商店もあり、民家も立ち並んでいる。


路地では子どもたちが遊んでいる。


巨大な壁の存在に加えて、もうひとつだけ異なる点は、そこに居る人々が皆、黒いアクセサリーを身に付けていたことだ。


馬車は街の中を進んでいく。


ここでグレースが久しぶりに口を開いた。


「どう?カイル、普通の街でしょ?」


「でもね、ここにいる人たちは私と同じなの」


「つまり、魔法使いよ」


カイルは既に気付いていた。


あの黒い石が原料の金属で作られたアクセサリーには見覚えがあった。


ハンナやエドガー、グレースが身に付けているものと同じだ。


カイルは黙っていた。


こちらから言わなくても、グレースは順を追ってこちらに説明するつもりなのだろう。


やがて、馬車は周りの家より立派な邸宅の前に着いた。


グレースは、馬車から降りる。


カイルも続いた。


邸宅のドアが開き、中から白髪の男性が出て来た。


グレースとハグをしている。


「こちらが…噂の異能の少年かね?」


「初めまして、カイルです」


「私はハンターだ」


「よろしくな、カイル」


「ささ、中に入ってくれ」


白髪の男性に促され、グレースとカイルは邸宅の中に通された。


邸宅の中には工房があり、炉も見えた。


カイルは工房の中を「神の目」で分析していた。やはり、だ。


タティスと最初に槍の穂先の材料を採りに行った川辺の横の崖。


あそこの断層に見えていた黒い石だ。


あれが「魔封石」ということか。


グレースとカイルは居間に通された。


大きなガッシリした造りの木製のテーブルを囲み、三人で椅子に座る。


白髪の男性、ハンターが口を開いた。


「カイルくん、キミには何が見えている?」


「そして、どこまで理解しているのかね?」


「この国のことを」


カイルはしばらく考えた。


今日は質問攻めだな…質問したいのはこっちの方なんだが。


「僕には、普通の人が見えないものが見えます」


「それだけです」


カイルはちょっとぶっきらぼうに答えた。


ハンターは声を出して笑った。


「アッハッハ!すまんすまん」


「怒らせてしまった様だな」


「こちらの方から話をしよう」


ハンターは少し、申し訳なさそうな顔をした。


「今から30年前の話になる」


「大陸で戦乱が起き、大国同士の戦争になった」


「今の、ロジャーズ帝国と、カウフマン帝国だ」


「大陸全体が戦地となり、多くの民も犠牲になった、痛ましい過去だ」


「戦乱は長引き、ロジャーズ帝国もカウフマン帝国も疲弊していった」


「兵士も武器も食料も、何もかも尽きていった」


「そこで、ロジャーズもカウフマンも魔法使い達を戦場に駆り出したのだ」


「それまで、魔法使いは医者や学者、技術者などの職業で平穏に暮らしていた」


「兵士が足りなくなった彼らは、魔法使いを兵士にしたのだ」


「病気を治すため、知見を得るため、街を機能的に保つために使われていた魔力を戦争に使った」


ここまで話すとハンターは紅茶をすすった。


「それまで民のために使ってきた魔法を人殺しのために使わざるを得なくなった彼らは、徐々に狂っていった」


「そして、あの男が現れた」


ハンターは眉をしかめた。


「ロジャーズ帝国の魔法使い兵士、プホルスだ」


「プホルスは、戦乱で妻と子どもを失っていて、自ら兵士に志願してきた」


「プホルスは、戦場で同じ境遇の魔法使い達を束ねていった」


「ヤツの目的は兵士として戦うことではなく、仲間を集めることだった」


「ロジャーズ側、カウフマン側の両軍にいた魔法使い達をどんどん仲間に引き入れていったんだ」


「ヤツが組織した魔法使い兵団は無類の強さを誇った、何の躊躇も無く相手を倒していった」


「魔法使いが、人間に復讐を始めた」


「旧ロジャーズ帝国も、旧カウフマン帝国も、プホルスの軍隊に滅ぼされた」


「やがてプホルスはこの、ロサーナ王国までやってきた」


「そして、特使を送り込んで来て、この地に住む魔法使いたちにプホルスの軍隊に参加しろ、と言ってきた」


「ロサーナ王国を討伐して、自分たち魔法使いが国を統治すべきだ、とな」


「馬鹿げた話だ」


ここでハンターは大きなため息をついた。


「だが、一部の者がプホルスに感化されてしまった」


「プホルスの軍勢が攻め込んで来た時に、加担した者がいたのだ」


「魔法を殺戮の道具に使うプホルスは強かった」


「ロサーナ王国の危機だった」


「そこで、この国を救ったのが、グレースだ」


「グレースは学者だ」


「魔封石を利用し魔法を封じる策を編み出した」


「プホルスの軍勢の武器は魔法だった」


「魔法を封じられ、チカラを失ったプホルス軍を捕らえた」


「そして、新しい国王を立てた今のロジャーズ帝国、カウフマン帝国に引き渡した」


「我々の一部の者がその時に捕らわれた」


「ロサーナ王宮は我々にも疑いの目を向けた」


「だが、この国を救ったのは魔法使いであるグレースだ」


「スキーンズ師団長にもご尽力頂き、我々は酷い罰を受けることはなかった」


「あの巨大な壁の中で暮らすこと、そして自ら魔封石を身に付けること、罰はこのふたつだ」


ここでハンターはカイルの目を見た。


「どうだね?」


「キミの知りたいことは、満たされたかね?」


カイルは冷静に答えた。


「そうですね、だいぶ」


「でも、話はその先があるでしょ?」


「そうだな」


ハンターはグレースの方を見ていた。


「全て、私から話してもいいのかね?」


「いいわ、ハンターから話して」


「プホルスが、復活した」


「脱獄したんだ」


「仲間の魔法使いも全て逃した」


「外部から手引きした者がいた様だな」


「ロジャーズ帝国も、カウフマン帝国も彼らを止めることは出来ないだろう」


「いずれ、この国にもやってくる」


「私たちは、ロサーナ王国の民だ」


「兵士ではないが、この国を守りたい」


「キミのチカラを貸してくれんかね?」


カイルは「確認ですが」と前置きして話し始めた。


「スキーンズさんの言う北からの嫌な風、という言葉の意味は、プホルスという人のことですか?」


ハンターが頷く。


「そうだ。プホルスの動きは早い」


「そして必ずこの国にやってくる」


カイルは静かに頷いた。


「分かりました」


「この国を守りたい、という想いは僕も同じです」


「チカラを貸して欲しいのは、僕の方です」


「よろしくお願いします」
































御覧頂いた皆様に心より御礼申し上げます。

初回投稿から毎日投稿を続けておりますが、最終話まで毎日投稿で走り切るつもりです。

常時、原稿ストックを40本以上キープして公開を続けます。

「エタりません、完結までは。」

最終話までお付き合い頂けましたら幸いです。


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