その9
賢児は、躍太郎の態度に、どこか不自然なものを感じていた。
“本当に宿復興に関するビジネス話が目的で呼んだのだろうか。今までの話、以前の伯父さんなら、15分もあれば十分決着が付く用件だ。それを40分以上かけているのは…”
「社長。あ、すみません、つい癖で。…あの、どうして今日はのんびりペースなんですか?」
賢児の思いを汲み取ったのか、玲香がさらっと質問をする。
「のんびりに見えるかい?」
「以前、パーティーのコンパニオンの代役したときに、社長は方々のテーブルを回って、ちゃちゃっと話をまとめていらっしゃって…。
あ、別にストーキングではありません。社長のお飲み物がなくならないように後を追えと、西川先生から言われていたんです」
「ああ。バイトの君たちも総動員だったね。コンパニオンたちが渋滞に巻き込まれて人手が足りなくなって。でも知らなかったよ。私専用の美人コンパニオンがいたとは」
「この打ち合わせ、すぐに終わらないほうがよろしいんですか?」
「いやいや、そんなわけじゃないよ。私もずっと剃刀ではいられないさ。歳かなあ」
社長当時、シェイバーとあだ名されていたことを引き合いにだし、躍太郎は言った。
「…そうですか。すみません。出すぎたことを申しました」頭を下げる玲香。
まさか玲香にそんなことを言われるとは思っていなかったのか、賢児の目には、躍太郎が少し焦っているように見えた。イラついたり、考え事をしたり、そういうときに彼は、右手の指先を擦り合わせるような仕草をするのだ。
「伯父さん、この件は、持ち帰らせてもらうよ。伯父さんの作った業績予測が、今のうちのベースに見合うものかどうか、大垣さんとも検討してみるよ。
…あと、この、使用目的が未定のスペース、ここはいつ決まるの? 伯父さんに言うまでもないことだけど、もし将来的に傘下に入るつもりなら、業種によっては、うちじゃ引き取れないよ」
「ああ、そこか…。これは華織と私とで、まだ意見が分かれていてね」
「今のところ、それぞれどのようにお考えなんですか?」
「華織は、“命”の職に就いていた人間の心のアフターケアをする場所にしたいと考えている。つまり、心療内科クリニックだ」
「心療内科ですか…。ヒーラーとかじゃなくて、精神科医や臨床心理士を雇うわけですね」
「その通り。カルチャースクール側にも一般人は入れない。同じビルで一般人に対する商売をするのは危険だからね。心療内科の対象者が、同じくスクール側の顧客だ」
「伯父さんの考えは?」
「画廊だ。アーティストも決めてある。…まあ、どちらにせよ、未定スペースは今のところ業務提携内容に入れてもらうつもりはない」
「わかった。じゃあ、検討内容からはとりあえずはずすよ」
「検討よろしく頼むよ。…そうだ、この後、このバルコニーでバーベキューしようかと思ってるんだ。お手伝い頼めるかな、玲香さん」
「はい。じゃあ、どこら辺から始めればいいか、聞いてきますね」
玲香が隣の部屋の華織のところに行こうとして立ち上がると、躍太郎が遮った。
「じゃあ、肉を買いに行こうか。近所にいい肉屋を見つけてね、予約してあるんだ。他に必要なものがあるかどうか、華織に聞いてくる」躍太郎は席を立った。
「うーん、何だか隣の部屋に行かせないようにしてるみたいだな…」賢児がいぶかしがる。
「何かしてるのかもしれないですね、隣で。何度も翔太を呼ぼうとするのにも、それなりの理由があるのかもしれませんし」
「そうだよな。それにこの時期、親父が一番頼りにしていると言っても過言じゃない周子さんが東京を離れるっていうのも、ちょっとなあ…」
二人とも、この流れにどこか妙な感じがしていた。
「もしかして…」玲香がつぶやく。
「ん?」
「周子さんなのかしら、今回のメインゲストは」
「周子さん?」
「実は、前にちょっと気になったことがあって…」
玲香は、以前、龍が羽龍の水晶を紗由のビー玉入れの中に混ぜたことには触れず、周子との約束に差しさわりのない範囲で、その水晶に対する周子の“反応”について話をした。
「確かにそれは変だな。彼女、その手のタイプの人じゃないっていうか…」
「後で翔太に何気なく聞いてみますね」
「うん、頼むよ。俺も龍に聞いてみる」
「じゃあ…とりあえずは、おいしいバーベキューを堪能しましょうか!」
玲香は自分のバッグの中をごそごそと探ると、ピンクのエプロンを取り出した。
* * *
華織、周子、龍、紗由、翔太の5人は、躍太郎たちが打ち合わせをしている隣の部屋にいた。
周子と紗由がソファーの上に横たわり、眠っている。少し離れたテーブルにいて、小声で話し合っている華織と龍と翔太。
「“命”さま。やっぱり、何かで包んであるみたいに見えます」
「包んである?」
「はい。前からそうなんですけど、周子はんのは見えづらいんですわ。巻き損ねの包帯の隙間から見えてるみたいいうか、ところどころしか見えへん」
「だからこの前、遠隔したときに反応しなかったんだわ。そうね、まずは包みを取り除きましょう。翔太くん、そのまま様子を伝えてちょうだいね。
龍は、こっちを手伝って。翔太くんの言う通りにイメージして、その包みを取りましょう」
翔太がチャクラの具合を事細かく説明し、華織と龍がイメージを統一する。
「取れないわね…」
「何か、すごく抵抗されてる」
「取ろうとしたときなんかな。光がきらーって強うなるで」
「おばあさま…紗由が!」
「周子はんが抵抗して、ぴかぴかが強うなると、紗由ちゃんがそのぶん弱くなります」
「無理しないほうが、よさそうね」龍を見て、うなずく華織。
翔太は周子の胸元をしばらく見つめていたが、はっとしたように華織を見上げた。
「“命”さま。これ…同じですわ!」
「何が何と同じなの?」
「この感じ、どっかで見た思うたんですけど、この前の、僕が雀のお宿にさらわれたときに、部屋に入ってきた男の人と同じです」
「それは確か?」
「はい。でも、あの人は最初はえらい強いぴかぴかでした。もしかすると、“命”さまよりもっとくらい。それが、僕らを見つけると、しゅーって包帯巻いたみたいになったんです」
翔太の言葉を聞くと、華織はしばし考え込んだ。
「今は、ここまでにしましょうか。やり方を変えたほうがよさそうだわ」
華織はそういうと、周子と紗由が眠るソファーへ歩いていった。
「あ…はい」
唐突にやめようと言われて、ぽかんとする翔太。その横では、龍が難しい顔をしている。
「龍くん、何で、やめなん?」
「さっきのやり方じゃ、包みが解けないんだ。何か別の方法考えないと」
「ふーん…」
「周子さん、ごめんなさい。今日はここまでにするわ。明日また、ちょっと…ね」
「は、はい…」半分うとうとしていた周子が、ふらっと体を起こすと紗由も目を覚ました。
「おねむ」目を擦る紗由。
「紗由、この後、バーベキューだよ」
龍が頭を撫でると、紗由は途端にぱっちりと目を開けた。
「おにく!」
しがみついてくる紗由を抱きしめながら、周子は思った。
声に出さなくても、まだ紗由の声が聞こえる。だめなんだ。少なくとも今、自分のこの状態は変わっていない。これからどうなるんだろう。
「かあさま、大丈夫だよ。必ず何とかするから」
「龍…」
「ただ、ちょっとだけ、おばあさまや僕が予想してたのと違ってたみたいなの。だから、もう少し我慢してね」龍はニッコリ笑うと、周子の手を取って握り締めた。
ちょうどそこへ入ってきた躍太郎が、バーベキューの準備に肉屋に行くが、他に買い物がないかと華織に確認する。華織は用意してあるものを書いたメモを躍太郎に渡した。
「周子さん、躍太郎さんが案内するから、お手数だけど賢ちゃんと玲香さんを連れて買い物に行ってきてくれる?」
「あ、はい」
「あなた、そこにあるものはもう買ってあるから、お肉屋さんで予約の品を受け取ったら、あとは他に好きなものを買ってきて」
「うん、わかった」
隣の部屋にいた賢児と玲香を呼び、躍太郎の運転で4人は買い物に出かけた。
* * *
残った華織、龍、翔太は、さっきの周子と紗由の状態を確認してノートに記した後、これからどうするかを話し合っていた。紗由は傍でスケッチブックにお絵かきをしている。
「おばあさま。そもそも伊勢では、どうしろって言われてたの?」
「まずは、なるべく霊峰に近い場所で、その力を頂きながら行う」
「今日がそれだね」
「そして、妨げの理由を探して取り除く」
「今の僕たちに取り除けなかったときは?」
「妨げを施した本人にそれを取り除かせる。私たちを全開にして行う。私たちは今のままで、開かれた龍の子にその部分を補ってもらう。あるいは、妨げを施した人間と私たち以外の、この手の力に優れた人間がそれを行う」
「…連れてくればいいんだね」
「…もう、あそこにはいないでしょう」翔太のほうを見る華織。
「あの人なら、誘拐事件の次の次の日に、雀さんち出ていったって聞きました」
「どこに行ったかわかる?」
「わからへん」
「探すから大丈夫よ」
「僕は全開にしてもいいよ。おばあさまは、正式に“命”になるまでの間はできないでしょ?」
龍の問いに小さく溜め息をつく華織。
「そうなのよね。私を開ければ問題ないんだろうけど…。でも、おまえを全開にしたら、きっとまた、ご指名がかかって、ややこしいことになるわ」
「そうか…そうだよね。半分でもあんなことになったんだから」
「2人とも、こないにぴかぴかなのに、まだ全部やないのんか!?」驚いて尋ねる翔太。
「ええ。実は今の私たちは中途半端な状態なのよ。今、足りない部分を補えるとしたら、同等の力の持ち主か、開かれた龍の子だけ」
「その子、どこにいるんや?」
翔太に聞かれた龍は、翔太の目をじっと見つめながら答えた。
「ここ」
「お、俺?」
「正確に言うなら、今の段階では、開かれた龍になり得る子、ね。翔太くんは」
「ええと…どないにすれば、それになれるんですか?」
「龍の玉を使って、伝授するんだ」
「龍の玉…舞喜ちゃんが言うてたやつや! あれ、本当やったん」
「まきちゃんて、この前の頭の悪いおにいさん?」
うなずく翔太。
「言われたんや。龍の玉、見せろて。俺はそれ使うとすごい力が使えるようになるて。
そんとき、俺が押し寿司の型持ってて、5段のすごいやつ。その蓋に龍の彫りもんがしてあって、それ見たら、縞猫のおっさんと舞喜ちゃんが、龍の玉やって騒いでたん」
「さすがに押し寿司の型じゃ伝授できないわね」苦笑する華織。
「使い方教えろてうるさいから、教えようとしたら、紗由ちゃんが来て、それで紗由ちゃん送るほうが先やと思うたら、玲ちゃんが来て、賢ちゃんが来て、じっちゃんが来て…」
「じゃあ、そのおじさんたち、まだ誤解してるんだ」
「本当のこと言おう思うたんやけど、おっさんたちに近づこうとすると、玲ちゃんがナマハゲみたいな顔になるんや。賢ちゃんが横にいるのにやで」
「悪い子だらけだったわけですものねえ。ナマハゲも出るわね。…まあ、私も人のことは言えない立場なんだけど」肩をすくめる華織。
「おばあさま。龍の玉って、宿にそれぞれあるの?」
「ええ。当主がその存在を知っている場合と、知らない場合があるけど」
「それ、どんなもんなんですか?」
「天珠という種類の宝石よ。小さい葉巻みたいな形で、茶色と白の模様になってるの」
「もしかして…あれか?」翔太が思い出したように言う。
「知ってるの?」
「知ってるいうほどやあらへんけど、ずーっと前にじっちゃんが忍び部屋で磨いてたの見たことがある。…あ、内緒やで! こっそり…見たから」
「何で、こっそりなの?」
「忍び部屋の鍵、普通は閉まってるんやけど、開いてた日があって、中で遊んどった。そしたら、じっちゃんが来て、隠れたんや。本当は勝手に入っちゃあかんとこやから…」
「それで飛呂之さんが磨いていたのね」
「はい」
「翔太君は、その石に触れたのかしら?」
「えっと…おかんが、じっちゃんに電話やて呼びに来て、じっちゃんが少しいなくなったんで、ちょっとだけ…」えへっと笑いながら華織を見る翔太。
「ちょっとだけ?」微笑む華織。
「えーと、隣に羽童様もあって、童様は腕をまあるく何かを抱えるみたいな格好してますやろ。その穴の中に入れるとちょうどええかなあ思うて、入れてみました」
「あら。すごいわ、翔太くん。いい勘してる」
華織の言葉に首をかしげる翔太。
「あのね、開かれた童になるには、段階を経る必要があるの。まずは、先代の開かれた童から伝授を受けること。それはきっと、あなたの曾お祖父さんがなさったんだと思うわ」
「はあ」
「次に必要なのは、羽童と龍の玉を組み合わせて、その気を自分の中に取り入れた上で、“命”から伝授を受けること。
…つまり、あなたは途中までやってたのね。だから羽童に触れるとチャクラが…人の胸のぴかぴかが見えるんだわ」
「ほお」
なんだか他人事な返事をする翔太。どうも今ひとつ理解できてないらしい。
「まあ…とにかく、翔太くんは今、半分だけ、その開かれた童になってるのよ」
「ほんなら、全部にしてください。そしたら、周子はんも紗由ちゃんも、大丈夫になるんですやろ?」真剣な目で華織に言う翔太。
「…それは今はできないわ」
「何でですか?」
「私は今はまだ正式な“命”ではないから」
「でも、それやと…」
「今は、応急処置をしておくわ。私が“命”に戻るまで、何とか引き伸ばして、それからね」
「僕に何かできることないですか」悲しそうに華織を見る翔太。
「紗由といっぱい遊んであげてちょうだい。今はそれで十分よ」微笑む華織。
その時、部屋の外で玲香の声がした。
「翔太ぁ、お肉買って来たわよ! 準備するから手伝って!」
近所の肉屋で肉を受け取り、賢児と一緒に先に戻った玲香が声を掛けた。
「ほら、玲ちゃんが呼んでるわ」
華織は翔太を促すようにして、部屋の外に送り出した。
「おばあさま。今の翔太くんでも出来ることあるのに、どうして教えてあげないの?」
「ここから先は、私たちで何とかしましょう」
「だって、4つの宿の羽童と龍の玉を集めれば、今のおばあさまでも開かれた龍の子にできるんでしょ? この前、そう言ってたじゃない。
おばあさまが正式に“命”になるのは、まだ3ヵ月くらい先だし、かあさまの、あんなに強い力をずっと抑えられるの?」
華織を責めるようにまくしたてる龍。
「探し物が得意な紗由と一緒に、“おうまさん”を追いかけるわ」
「でも…」
「龍、落ち着いて。羽童と龍の玉は、黒亀亭、清流旅館、返納された雀のお宿、この3つのぶんは集められるだろうけど、縞猫荘の分は無理よ。
羽童は、昔に壊れてしまっている。龍の玉は、跡取りが知らないんじゃ、どこにあるかわからないということでしょ」
「翔太くんの影童なら、一番強い子なら代理が務まりそうだよ。縞猫の龍の玉だって、探せばいいじゃないか」
「龍。相手は、そういう力が欲しくてたまらない人間なのよ。たとえ見つかったとしても、翔太くんにその力を与えるために、自分の龍の玉を渡すわけがないでしょ」
華織の指摘に言葉に詰まる龍。
前掛けが入ったリュックを部屋に置いたままだったので、すぐに取りに戻ろうとした翔太は、二人の会話をドアの外で聞いていた。
“縞猫のおっさんの龍の玉、俺が見つければええんや…”
翔太は、かたく拳を握り締めながら、玲香のところへ走って行った。
* * *
「ほーら、紗由。お野菜もお肉も焼けてるぞ。でも鉄板はすごーく熱くて、触ると火傷しちゃうから、ぜったいに触っちゃだめだぞ。ほら、龍も翔太も食べろ」
「てっぱん…」興味津々に、のぞきこむ紗由。
「賢児さま。子供に“絶対ダメ”って言ったら、やりたがります」玲香が小声で注意する。
「紗由ちゃん、大人の女は鉄板に手を出したりは、せえへんのやで」翔太が紗由に言う。
「そんなことしないよ!」
「鉄板の火傷はごっつう痛いんやで~。お肉食べれへんほど痛いんや」
「おにくたべる…」途端に悲しそうな顔になる紗由。
「じゃあ、焼くのは賢ちゃんな。紗由ちゃんは、賢ちゃんのぶんも食べてええから」
「うん!」
「俺も食べたい…」今度は賢児が悲しそうな顔になる。
「ちょっと、翔太。それじゃ賢児さまが可愛そうでしょ」
「玲ちゃんが、自分のぶんを、あーんてしてやればええやろ」
「な、何言ってるのよ。人前でそんなことできるわけないでしょ」
「さすが翔太くん、いい考えだわ」頷きながら言う華織。
「そうだよね、おばあさま。紗由は鉄板に触りたいけど触らない。賢ちゃんはお肉食べたいけど自分の分が食べられない。玲香ちゃんは、自分のお肉を賢ちゃんにもあげなくちゃいけない。これって、三方一両損ていうやつだよね」
龍が言うと、翔太が感心したように見る。
「龍くんは、難しい言葉知っとるんやなあ。やっぱり、すごいなあ」
「そんなことのためにある言葉じゃないし…」
ぶつぶつとつぶやきながら、賢児が紗由の皿に肉と野菜を乗せると、紗由が言った。
「賢ちゃん、あーん」
「ああ、紗由、お前は本当にいい…」
「子だな」と賢児が言おうとしたとき、紗由はフォークに刺した肉を自分の口に運んだ。
「おいちい!」
「紗由ちゃん。お肉の次は、お野菜を食べるんやで。大人の女は順番に食べるもんなんや」
「はい! つぎはおやさいです」
何か納得の行かない賢児をよそに、紗由はもりもりと肉と野菜を食べ続け、バーベキューパーティーの夜は楽しく更けて行った。
紗由は、食事が終わって一段落している皆に、自分が持ってきたおみやげを披露した。
「これ、さゆがつくったよ!」
「あら、美味しそうなクッキーね。すごいわ、紗由ちゃん」
褒める玲香をうれしそうに見上げ、紗由は説明を始めた。
「これが、わんこ」
紗由が広げて見せたのは、犬の形に抜かれたクッキーだ。きっと、型抜きのお手伝いをしたのだろうなと玲香は思った。
「こっちが、にゃんこ」
次に出てきたのは、猫型のクッキーだった。
「これもあるよ!」
紗由が自慢げに開いて見せた包みには、細長い雲のような形のクッキーがあった。
「うんこ!」
にこにこ笑って玲香を見つめる紗由。
「う、うん…?」玲香が言葉に詰まる。
「うんこだよ、玲香ちゃん。紗由の自信作」龍が淡々と説明する。「わんことにゃんこを型抜きして、残ったのを細い棒状にした紗由のオリジナルなんだ」
「うーん、なるほど。チョコ味のやつやな。このオレンジのつぶつぶが、そのまま出てきたニンジンみたいで、ようできとるわ」
感心したようにクッキーを眺め回す翔太に賢児が言う。
「でも、食べ物として、どうなの、それ」
「そないなこと言うたら、賢ちゃんは、わんこやにゃんこを食べとるんか?」
「食べないけど…」
何となく不満そうな賢児をよそに、団欒のひと時は過ぎて行った。
* * *
寝室に戻った華織は、こめかみに手を当てると、棚にあった羽龍を握り締めて、その水晶を凝視した。妻の様子を心配そうに覗き込む躍太郎。
「どうしたんだい、華織。何か受け取ったのか?」
「翔太くんの額に、一瞬、傷が出来たように見えたの」
「傷?」
「ええ。そんなに深い傷ではないと思うけど、血が滴り落ちていたわ」
「やっぱり、私たちに関わることが原因なのか?」
「そこまでは降りてこなかったけど…。その可能性もあるから、周子さんの件に関しては、翔太くんにははずれてもらうわ。翔太くんにも、さっきそう言ったところよ」
「それならいいが…」そうは言ったものの、躍太郎は何か不安になっていた。
* * *
「紗由ちゃん、また宝探しせえへんか?」
「いいよ! なにさがすの?」
「こういう宝石や」自分の描いた絵を見せる翔太。
「このほうせき、目があるね」
「そや。これ一緒に探そうや。でも、みんなには内緒やで。見つかってから、驚かしたるんや。ええか?」
「うん」
「きっと、かあさまが喜んでくれるで」
翔太がにっこり笑うと、紗由もうれしそうに笑った。
* * *




