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東方無明録 〜 The Unrealistic Utopia.  作者: やみぃ。
第一章 明無夜軍
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第二十五話 空戦




 日本国 関東地方北東部上空




「レイ、しつこいっ……『疑心闇鬼』……!」


 ミラージュが悪態を吐きながら、またもあの幻術を発動する。

 視界に多数の剣鬼が現れ、空が暗転するが。


「懲りませんね。『正せ』」


 何度やっても同じこと。

 私の一言で幻の剣鬼は全て消え失せ、空は明るさを取り戻す。

 そして、僅かな数の本物の剣鬼に地槍(ゲイボルグ)の刃先を向け、発せられる月光線を以て撃ち落とした。


 私、照月(てるづき)(れい)の「正す」力の前に、あらゆる嘘や虚構は崩れ去る。

 ミラージュの「疑心闇鬼」などという幻術も、私のこの能力の前には無力だ。


 アリューシャン列島沖から、ミラージュを追撃すること既に数時間。

 日本列島上空にまで至っても、彼女は逃げるのを止めない。

 恐らく、アヤクラという此度の騒動の首謀者と合流するまで、こうして逃げ続けるつもりなのだろう。

 つまり、彼女を追って行けばアヤクラとやらを倒す機会が得られるということだ。


「!」


 危険を感じ、咄嗟に身体を横転させる。

 前方から迫った弾幕が、唸りを上げて横を通過した。


 ミラージュを見ると、進路はそのまま身体だけをこちらに向け、周囲に妖力弾を生み出していた。


 撃ち合いに切り替えるつもりか。

 良いだろう。


 槍から左手を離し、その掌を開く。

 妖力を集中させ、目の前に金色の魔方陣を生み出す。

 そして、それをミラージュに向け“起動”した。


 機関砲の如く、魔方陣から連続して撃ち出される光弾。

 彼女は妖力壁でそれに耐えつつ、周囲の妖力弾を次々に放ってくる。

 私は魔方陣をもうひとつ展開し、それらを防ぐ。


「っ……!」


 凄まじい数の弾が、二人の間を行き来する。

 互いの眼前で爆ぜる、互いの弾。

 私も彼女も、自分から撃ちやめようとはしない。

 先に妖力の切れた方が敗け、力と力の応酬だ。


「……?」


 視界が揺らぐ。

 防御用の魔方陣が乱れ始めているようだ。


 火力では敵わないか。

 このままではまずい、退かなければ。


 そう思った刹那。


「うぁあっ!?」


 悲鳴。

 爆風と多数の金属片が、ミラージュを飲み込んでいた。


 図らずも撃ち合いを終えた私達の両脇を、轟音と共に何かが通過する。

 見ると、翼に日の丸を付けた鉄の鳥。

 日本の戦闘機のようだ。

 ミラージュに一撃を見舞ったらしい2機の戦闘機は、加速しつつ後方へと飛び去っていく。


 咄嗟にミラージュを振り返る。

 背中に傷を負った彼女は、苦しそうな表情のまま失速していく。


「……隙あり!」


 私は地槍(ゲイボルグ)を構え、迷わず突貫した。


「……!!」


 我に帰ったミラージュが、両手に妖力を集めて大斧を造成する。

 即座に振るわれたその大斧の刀身が、地槍の刃先と交わった。

 接触点から飛び散る、白い火花と紫の炎。


「ったぁ!」


 槍を回転させながら引き、かけ声とともに再び突き出す。

 ミラージュは斧でそれを防ぎ、またもつばせり合いに持ち込もうとする。

 それを見て私は槍を引き、今度は横から斬撃を叩き込む。


 質量で勝る彼女の斧相手に、つばせり合いなどやっていられない。

 防がれたら、やり直すだけだ。


「くぅ……」


 ミラージュが忌々しそうな声を発しつつ、斧を横に振りかぶった。

 防戦一方の状況に焦れたようだ。


 私は刺突の構えのまま、“左から”迫る斧を下がって避ける。

 そして、隙だらけであろう彼女の胴に、槍を突き入れようとして。


「!?」


 “上から”斧で殴られた。

 慌てて頭上に構えた槍に、紫の刀身が喰らい付く。

 左から右へと振り抜かれたはずの斧は、幻の如く霧散していた。


 ここに来て、またも幻術か。

 こいつ、経験の浅そうな戦い方のくせに、撹乱戦法だけは達者だ。

 相も変わらず小賢しい。


 純白の槍が、斧の質量をまともに受け軋む。

 華奢な身体には似合わない、凄まじい力だ。

 無理だ、やはりつばせり合いでは勝てない……。


「……く、ぁあっ!!」


 斧が振り抜かれ、私の身体は槍ごと下に叩き落とされる。


 一瞬で地表が迫るが、どうにか体勢を立て直す。

 着地の刹那、槍を地に思い切り突き立て、衝撃を相殺する。

 足元に小さなクレーターが作られ、アスファルトか何かが大量に舞い上がった。


 槍を地から引き抜き、天に向ける。

 刃先越しに見えるミラージュは、斧を振り上げ追撃の構えだ。


 避けようか、迎え討とうか。

 そう考えていた矢先。


「……また、なの」


 ミラージュが口を開くと同時に、先程と同じ爆風が彼女を飲み込む。

 だが、今度は怯みすらしない。

 爆風も金属片も、展開された妖力壁に阻まれたからだ。


 煙の中から無傷で出てくるミラージュ。

 機関砲を放ちながら通過しようとする2機の戦闘機を睨み。


「邪魔、しないで」


 一閃。

 振るわれた斧の衝撃波は、彼らを真っ二つに切り裂いた。


 爆散しつつ落下していく鉄の鳥。

 それを横目に、私は空へ向けて素早く槍を構える。


 無駄な犠牲になど、させはしない。


「『ルナフリークス』!」


 地槍(ゲイボルグ)の周囲に、白く細長い結晶体が幾つも現れる。

 その先端が次々と空を向き、突然飛翔する。

 それらが蛇行しながら向かう先には、此方を振り返ったばかりのミラージュが。


「……!!」


 妖力壁に食い込んだ多数の結晶体は、閃光を伴う爆発を起こす。

 その威力は凄まじく、あれほど強固だった妖力壁を軋ませ、歪ませた。


「まだ、いきます!『ルナフリークス』!」


 もう防げまい。

 間髪入れず第二波を生み出し、発射した。


「っ……!」


 ミラージュは壊れかけの妖力壁を回収すると、やってられないとばかりに踵を返す。

 そして、南西の方角へと飛び去ろうとする。


「今だ! 撃て、撃てぇ!」

「全部隊、攻撃開始!」


 唐突に、人間達の怒号が耳に入った。

 すると、至る所の建物の屋上から、天に向かって細長い煙が延びて行く。

 ある程度の高さまで登ったそれらは途中で折れ曲がり、ミラージュの背中を追いかけ始める。

 人間の兵器、ミサイルだ。


 私の生み出した結晶体と人間達のミサイルが、束になって彼女を追う。


「逃しません」


 アスファルトを蹴って飛び上がり、私も彼女を追跡する。


「来ないで……!」


 突如ミラージュが飛行高度を極端に下げ、通りに沿って建物の合間を縫うように飛び始めた。

 ミサイルを巻くためだろう。

 案の定、細かい制動の利かないミサイルや結晶体達は、次々とビルの壁面に突っ込み爆ぜていく。

 その破片と煙を掻い潜りつつ、私も通りの只中へと飛び込んだ。


 連なる建物が、幾多の車が、並ぶ電柱が、一瞬で眼前まで迫り、一瞬で後ろに消えていく。

 この速度で建物に激突などしようものなら、いくら私でもただでは済まない。


 前方を飛ぶミラージュが目に映った。

 後ろを気にする余裕の無い彼女も、恐らく私と同じことを考えているのだろう。


 冷静に、慎重に、なおかつ速度を保ちつつ、ふたりは通りを駆け抜ける。




 * * *




 東京 無明天蓋周辺




 不意に、ミラージュが高度と速度を大きく上げた。

 慌てて後を追い、私も上空へと舞い上がる。


 瞬間、その前方に広がった景色に、私は目を見開いた。

 かつては江戸と、現在では東京と呼ばれる、日本の大都市。

 今も昔も、日本一の大都市として有名だ。


 だがその中心地は、あまりにも非現実的な光景となっていた。


 都市の中心地を覆う、巨大なドーム形の黒い霧。

 その周囲には、複数種類の外見を持つ暗鬼の群れが涌いている。

 人工物の殆どは破壊され、生きた人間の姿は何処にもない。


 この現代において、人類の都市が異形の巣窟と化しているなど、ただ事ではない。

 これも首謀者である大妖怪、アヤクラの仕業なのか。


「 、 !!」


 私に気付いた地上の暗鬼達が、対空射撃を始める。

 高度を上げてそれから逃れようとすると、行き先を塞ぐように剣鬼達が現れ、突っ込んできた。

 そうこうしている間に、ミラージュの背中はどんどん遠ざかる。


 待ち伏せ、挟撃、時間稼ぎ。

 烏合の衆とは思えない、連携の取れた動き。

 まるで……そう、軍隊だ。


「……押し通ります、『ゲイボルグエッジ』!」


 地槍(ゲイボルグ)を握り直し、大量の妖力を流し込む。

 それを正面に構え、超速を以て突貫した。


 前方から凄まじい相対速度で、剣鬼の群れが迫るが。


「 !? 、 ……」


 彼らは私に近付いたそばから次々と絶命していく。

 槍の刃先を頂点として私を包むこの光の傘は、触れるモノ全てを切り裂くからだ。

 私は何物にも邪魔させず、暗鬼の包囲を突破した。


 剣鬼の群れを抜けると、既に黒いドームの上空だった。

 逃げるミラージュの背中に、一瞬で追い付く。

 驚愕の顔で、此方を振り返る彼女。


 もはや避ける事すら叶わない距離。

 この勝負。


「もらいました……!」


 槍の刃先が、彼女に向け突き出される。


「っ……アヤクラ、様……」


 彼女が目を閉じ、呟く。




 刹那。


「……っ!?」


 突然、地槍(ゲイボルグ)が折れ。


「ぐ……ぁああぁっ!?」


 右から強い衝撃を受けた。


 身体が、尋常ならざる速度で吹き飛ばされる。

 咄嗟に手足に妖力を込め、どうにかその場に踏み留まる。


「私の従者に手を出そうとは、良い度胸だな」


 静かな殺気を含んだ、低い声。

 はっとして、ミラージュの方を見る。

 いつの間に現れたのか、彼女の隣にひとりの男が浮かんでいた。


「我が名は、无月(むつき)綾蔵(あやくら)


 黒髪、黒目、暗い服。

 右手に握るは、赤く黒い片刃剣。


 ひしひしと感じられる絶大な妖力が、彼が強大な妖怪であることを示している。

 綾蔵(アヤクラ)と名乗ったこの男が、此度の騒動の首謀者で間違いないだろう。


 口を閉じたまま、槍を再生成し綾蔵に向け構える。


「貴様の相手は、私だ」


 対する彼は、その片刃剣を持ち上げて私に向け。


「……照月(てるづき)(れい)




 彼には名乗ったはずのない私の名前を、口にした。





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