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東方無明録 〜 The Unrealistic Utopia.  作者: やみぃ。
第一章 明無夜軍
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第二十四話 懲罰




 西太平洋 日本海上空




 前方、西の蒼空を睨む。

 目に映ったのは、16発の中距離弾道弾。

 4発ずつ4組に群れるその弾道弾は、上空に向け猛然と飛翔していく。

 方角からして、やはり東京の天蓋めがけて発射されたもののようだ。


「逃さんぞ。剣鬼、召喚」


 指を鳴らし、低い声で呟く。

 すると、十数体の剣鬼が黒煙と共に現れた。

 翼を広げてこちらを見る彼らに、私は命令を下す。


「各1発ずつで良い、確実にあれを落とせ。先頭の4発は、私がやる」


 ――――了解、アヤクラ様。


 彼らの命令受諾を確認すると、私は飛行速度を上げる。

 そして、16発の弾道弾のうち、先頭の4発を見据えた。

 その先端部から感じられるのは、神の火の気配。


「核弾頭……か」


 させるものか。

 必ず、墜とす。




 核兵器。

 それは、人類が持ちうる武器の中で最も強く、そして最も悪しき物だ。


 たった一発の核爆弾で、一瞬にして都市は火の海となり、人や物は消滅する。

 それだけではない。

 撒き散らされる大量の放射能により、その土地は短くとも数日間、長いと数十年間に渡り、生命を殺し続ける死の世界となるのだ。

 世界にある人類国家のうち力のあるいくつかは、そんな最強最悪の兵器を多数保有している。


 だが、基本的に核兵器は“使用は”されない。

 核兵器の多くは広範囲攻撃兵器である。

 軍事施設を狙ったとしても、炸裂すれば凄まじい数の民間人を巻き込んでしまう。

 さらに被害国が核での報復攻撃に出た場合、先制使用した国も同じ被害を受ける可能性がある。

 そのため、理性ある国家は核兵器の使用を躊躇うのだ。


 皆が報復を恐れ、核での先制攻撃をしたがらない。

 皆が核を脅しに使うが、皆が核に脅されている。

 そんな状況ゆえ、ここ半世紀以上、強国同士での戦争は一度も起きていない。

 最強最悪の兵器の存在が世界平和の要とは、実に皮肉な話である。




 しかし、とんだ理性の無い国があったものだ。

 北朝鮮。

 彼らは愚かにも、東京の無明天蓋に対する攻撃に核を使用するつもりらしい。

 結論から言えば、核を使ったところで天蓋は壊れない。

 ならば何が問題なのかと言うと。


 あくまで私の目的は、人類の縄張りを削り取り、妖怪の縄張りを確保することだ。

 単に人間を殺すことではないし、死や絶望の世界を創ることでもない。

 ゆえに、核によって死の世界を創らんとする思想とは、相容れないのだ。


「やれ」


 私の一声で、剣鬼達が弾道弾に対し特攻を始める。

 私は加速して彼らを追い抜き、弾道弾のうち先頭の4発に接近する。


 妖力を凝縮し、刀を造成する。

 それを右手に握り、弾道弾とすれ違う刹那。


「……!」


 凄まじい速さの回転斬りを見舞う。

 ふたつの核弾頭に横一文字の亀裂が走り、ややあって空中分解した。


 すばやく身体を反転させ、残る2発の弾頭に背後から接近する。

 片方の真後ろに付き、刀を握っていない左手をそれに向ける。

 掌に光弾を生み出し、弾道弾のひとつに狙いを定め、撃つ。


 高速で飛翔する弾道弾が相手でも、真後ろからであれば間接攻撃を当てることは可能だ。

 撃ち出された光弾は弾道弾にめり込み、爆ぜた。


 その破片の間をくぐり抜け、残る1発の弾道弾の前方へと躍り出る。

 それを正面に見据えると、刀を横手に構え。


「……ふっ!」


 即座に居合い斬りを叩き込んだ。

 弾道弾は真っ二つに裂け、失速しながら舞い落ちていく。


 努めて迅速に始末したが、剣鬼達のほうはどうだろうか。

 私はひとりで4つ葬ったのだ。

 1体1つで割り当てたあいつらは、当然達成できていなければならないが。


「貴様ら、仕留めたか?」


 ――――目標、全破壊。被害無し。


 剣鬼達に訪ねると、無機質な答が返ってきた。

 見回したところ、辺りに浮かぶのは弾道弾の破片と十数体の剣鬼のみだ。


 杞憂か。


「そのようだな、よくやった」


 剣鬼達を労うと、再び進行方向を西へ向ける。

 その先、白い雪雲に霞む陸地を眺める。

 朝鮮半島北部に位置する独裁国家、北朝鮮の国土だ。

 先ほどの弾道弾の発射煙が、未だ幾筋も寒空に漂っている。


 天蓋に手を出した罰を、核を使った罪を、償ってもらおうか。


「次だ。私に先行し、制空権を確保しろ。地上は私がやる」


 そう言いつつ、更に多数の剣鬼を生み出す。

 その総数は、百をゆうに超える。


「征くぞ。懲罰と洒落こもう」


 ――――了解、アヤクラ様。




 百数十の黒き影は、蒼空を裂いて西へと向かう。




 * * *




 朝鮮民主主義人民共和国 東海岸部某所




『攻撃車両部隊、壊滅状態! 航空隊はまだか!?』

『こちら第二陣地、激しい攻撃を受けている!』

『第109航空隊、被撃墜半数以上! このままでは全滅します!』


 ひっきりなしに入ってくる絶望的な知らせに、思わず机を殴り付けた。


「馬鹿な……敵は何だ! 一体誰から攻撃されている!?」

「じ、情報によりますと、黒い小型の戦闘機からの攻撃とのことで……」

「そんなことは見ればわかるわ役立たずが! こいつらの所属を聞いているのだ!」


 窓の外、雪に霞む空に乱舞する黒い影達を、忌々しく見上げる。

 彼らに攻撃された我が軍の戦闘機やヘリコプターが、火だるまになって墜ちていく。


 アメリカ軍か? 日本軍(自衛隊)か? まさかロシア軍じゃないだろうな?

 だから言ったんだ、核弾道弾攻撃などすべきではないと。

 平壌(ピョンヤン)の奴らは一体何を考えているのだ。


「……委員長閣下に第一次報告。不明の敵の空襲により当方面の陸空軍は壊滅、戦闘能力を喪失したと」

「了解、直ちに」


 核を積んだ弾道弾を発射した車両は、この基地周辺に展開している。

 敵が反撃として狙うならば、確かにここ以外にはあり得ないだろう。


 私はいい、だが部下達が不憫だ。

 貧乏くじを引かされるのは、いつも我々末端の部隊なのだから。

 上層部め、この大損害、どうしてくれる。


『本基地前面の対空車両部隊、全滅! 黒服です! あの黒服にやられました!』

「……黒服、だと?」


 見張り員から唐突に入った無線に、眉を吊り上げながらおうむ返しする。


 黒服。

 東京にあの黒いドームを生み出し、その上空に君臨する謎の人物の通称だ。

 日本も国連も、そして我が国も、彼が恐らく此度の騒動の首謀者であると踏んでいる。


 核に対する報復攻撃のつもりか。


『く、黒服、こちらに来ます!』


 双眼鏡で窓から外を確認する。


 居た。

 空に向け放たれる弾幕の中央、刀のようなものを振り回す人影を視認した。

 その刀身から生み出される光弾や光線が、対空車両を貫き爆散させていく。

 人影は、次第にこの基地に近づいて来る。


『こちら機甲部隊、奴の進路を塞ぐ! 全車突撃!』


 不意に、鉄条網を踏み潰しながら10両ほどの戦車が現れた。

 黒服と基地の射線上に割り込んだ彼らは、その戦車砲を前方の黒服に向け。


『撃て!』


 全車同時に発砲した。

 空へと放たれた幾つもの滑空弾は、一瞬で黒服に到達する。


 だが、黒服はそれを遥かに上回る速度で避け。


「……!!」


 戦車隊の中央に向け、その刀を投げつけた。


『全車全速後退……ぐわあぁっ!?』


 断末魔の悲鳴と共に、戦車隊長からの無線が途絶える。

 同時に、刀の突き刺さった地面が大爆発を起こし、巻き込まれた戦車達が空に舞い上がる。


 何十トンもある鉄の塊が、次々とこの基地に影を落とし……。


「さ、下がれ! 総員退避!!」


 叫んだが、遅すぎた。


「ぐがっ!?」


 背後からの爆風が、私を吹き飛ばす。

 身体が壁へと叩きつけられた後、重力に引かれその場に崩れ落ちた。

 倒れた私は咄嗟に眼を見開き、爆風の発生源を振り返る。


 天井を突き破った“戦車だったモノ”が、火を吹きながら潰れていた。

 巻き込まれた電子機器や武器弾薬にも燃え移っている。

 もはや基地能力は喪失したも同然だろう。


「っ……基地を放棄する。総員退去だ……急げ!」


 口から血を滴らせながら、指示を下す。

 立ち上がろうとするが、出来ない。

 脚をやられたようだ。


「司令官! 早くこちらへ……」

「馬鹿者、私に構うな! あれが見えんのか!?」


 部下の気遣いを蹴り、割れた窓の外を指差す。

 警備兵を次々に切り捨てながら歩いてくる、黒服の姿があった。


「委員長閣下に第二次報告、敵はあの黒服だと。必ずお伝えしろ……さあ走れ!!」

「り、了解! 御武運を!」


 若い兵は私に敬礼すると、急ぎ走って視界から消えた。




「お前は逃げないのか?」


 流暢な朝鮮語で話しかけてくる、低い声。

 見上げると、奴が居た。


 黒い髪に暗い色の服、飲み込まれそうな闇色の瞳。

 そして、右手に握られた赤を基調とした独特の意匠の片刃剣。

 “黒服”だ。


「ああ。アンタに私を殺させて、部下が逃げる時間を稼がにゃならんのでね」

「難儀な仕事だな」

「そいつぁどうも」


 時間稼ぎにわざわざ付き合ってくれるとは、面白い奴だ。


「核。誰の指示だ」


 黒服が、単刀直入に訊いてくる。


「平壌の東、第一秘密基地に逃げた軍上層部からの指示さ。まだそこにいるはずだ」


 さらりと、隠すべき事柄を話してやる。

 上を庇うつもりなど毛頭ないからな。


「   、     。  」


 黒服は私からの情報を聞くと、何事か誰かに指示を下した。

 さしずめ、部下に攻撃命令でも出しているのだろう。


 しかし今の言葉、日本語に聞こえたが。


「あんた、日本人か? 名前は?」

「日本“人”ではない。日本列島生まれの“妖怪”だ。名は、ムツキアヤクラと言う」


 妖怪……やはり人間ではなかったか。

 人智を超えた事象や力も、これなら強引に飲み込める。


「アヤクラさんよ……」

「なんだ」


 立ち去ろうとする彼を呼び止める。


 死んでいく私にとって、彼の目的など知ったことではないが。

 世界規模の大騒動を引き起こしたのだ、世界は大きな変革期、もしくは戦乱の時代を迎えることだろう。


 その主役は、間違いなく彼だ。


「上手くやりな」


 彼は立ち止まり、怪訝そうな顔で振り向くと。


「……ああ」


 僅かな笑みを見せ、上空へと飛び去っていった。




 運か情けか、アヤクラは私を殺さなかった。

 だが、私は生きて帰るつもりはない。

 敵前逃亡で銃殺刑など、不名誉にも程がある。

 それから逃れたとしても、代わりに家族が殺される。

 残された選択肢は。


「自決、か」


 火のついた煙草を吹かしながら、呟く。


 昔から覚悟していたことだ。

 それに、後悔するほどつまらない人生でも無かった。


 ため息ひとつ。


「悪いな」


 腰の手榴弾のピンを抜き。


「先に失礼するぞ」


 拳銃をこめかみにあてがい。


「……妻子よ」


 引き金を引いた。




 * * *




 ――――基地制圧及び破壊完了。


「ご苦労」


 平壌の暗鬼との心通信を切る。

 これで、北朝鮮首脳部による核攻撃はほぼ不可能となった。


 さて、帰るか。

 そう思った矢先。


『……申し訳ありません、綾蔵様。邪魔者を引き連れて帰ることになりました』


 我が従者、ミラージュ・ナイトメアから心通信が入った。

 邪魔者……十中八九、あの月光の妖怪だろう。

 引き連れる……追撃されているということか。


「状況は把握している。構わん、そのまま帰投しろ。決して墜とされるな」


 それだけ伝え、東へと身を翻す。


 ミラージュが一度敗れた相手だ。

 あまり長くは持たないだろう。

 助けに向かわねば。


「すぐに行く。耐えてくれミラージュ」


 私の従者に手を出すとは、とんだ命知らずが居たものだ。

 望み通り、私が相手してやろう。


「必ず、帰ってこい」


 空を駆ける。




 目指すは東京、無明天蓋。





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