↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/64

第47話 ライラのお仕事

『世界ランキング12位を含むS級ダイバー五名が撤退した今回のダンジョン。専門家からは、これまでに無い危険性を指摘する声も――』


「……好き勝手言いやがって」


 俺たちが病室へ入った途端、鉄華がテレビを消した。


「おはよう、鉄華」

「うっす、アニキ! おはよっす!」

「朝っぱらから元気だなあ」


 昨日、全身を機械に繋がれてた女とは思えない。

 ベッドの上で胡坐をかき、片手をぶんぶん振っている。

 その様子に俺は安堵を覚えた。


「もうピンピンっすよ!」

「お前、昨日死にかけてたんだけど覚えてる?」

「寝たら治ったっす!」

「治したの私ですぅ」


 俺の隣から朝比奈が訂正した。


「お、朝比奈! あざっす!」

「いえいえ。ただ、まだ疲労は残ってますからねぇ。あんまり動き回っちゃ駄目ですよぉ?」

「余裕っす! 今すぐでも行けるっすよ!」

「人の話聞いてくださぁい」


 ぷくーと頬を膨らませる朝比奈。

 まあ、この調子なら心配はいらなそうだ。

 昨日の弱々しい姿を見ているだけに、ひとまず安心する。


「うし、そろそろ始めるか」


 俺は病室の丸椅子を引っ張ってきた。


「うっす!」

「はぁい」

「オッケー!」


 一人、昨日までいなかった奴の声が混ざっている。

 鉄華もそこで改めて、俺の隣に立っている女へ視線を向けた。

 金髪のショートヘアに碧眼が特徴的な彼女。

 白Tシャツにショートパンツというずいぶんラフな格好だ。


「そういや、ちゃんと喋んの初めてっすね」

「だね!」


 鉄華が目を細め、ライラがにっと笑う。

 それを背中で聞きながら、俺はスマホをテーブルに立て、テレビ会議を繋いだ。


「もしもーし、聞こえるかー?」

『はい、こちら文月です。聞こえてますよ』


 画面にはオペレーター風の文月。

 緑の髪の上からヘッドセットを装着している。

 これで全員揃った。


「じゃあ、まずは自己紹介からでいいか」

「ボク?」

「お前以外に誰がいる」

「はーい!」


 ライラはその場でくるっと一回転して、鉄華と朝比奈へ向き直った。


「ボクは神代(かみしろ) ライラ、二十二歳! 世界ランキング第3位! 好きなものはスポーツと甘いものと可愛いものと――あと仁くんです!」


 ビキィッ!!

 三方から一斉に青筋の立った音がする。

 一番怖いのはスマホからも音がしたことだ。

 恐らくマイクはノイズキャンセリング仕様のはずで、それを貫通するほどデカい音を出したということだから、青筋どんだけ屹立してんだよとツッコみたくなる。


「……最後いらんだろ」

「いるよ?」


 ため息をつきながら言うと、即答で返ってくる。


「よろしくね、鉄華ちゃん! 柚葉ちゃん! 知世ちゃん!」

「……よろしくっす」

「……よろしくお願いしますぅ」

『……まあ、私は仕事柄、顔見知りですが』


 三人とも微妙な顔をしながら返事をした。


 神代ライラ。

 日本人の父とイギリス人の母を持つ、世界ランキング第3位。

 世界中を飛び回ってダンジョン攻略をする一方で、テレビや広告、映画などにも出まくっている人気者だ。


 ダイバー人気が高い今の時代において、実力があって見た目にも華がある彼女は、そりゃまあ人気が出る。


 世界的スター。

 ダイバー界のアイドル。

 そんな呼ばれ方をしていたはずだ。


「……なんか、フツーっすね」


 鉄華がぽつりと零した。


「え? ボクが?」

「っす。何かもっとこう……世界の上の方って、怖ぇ奴ばっかなイメージだったんで。フツーに可愛い女の子だなーって」

「怖いかあ、誰を見てそう思ったの?」

「そりゃ他の二人っす。鳳城さんとか……」

「あー」


 ライラも俺も納得する。


「麗華はまあ……圧あるよな」

「普通にしてるつもりなんだろうけどね。ボクでもたまに『こわっ』と思うもん」

「それに比べたら、確かにお前は普通かもな」

「ふふん!」


 ライラは自慢げに胸を張る。


「当然! アイドルに威圧感なんていらないからね!」


 確かに見た目だけなら、明るい大学生の運動部だ。


「だけど、腕は本物だぞ。そこは俺が保証する」

「えっ」


 ライラが俺を見る。

 くりっくりの青い瞳でこちらを凝視している。


「も、もう一回言って?」

「嫌だよ」

「あ、待って。録音するから」

「待つも何も言わねえって」

「何でさ!? ほら、ワンモア! 『ライラは最高の女』だって!!」

「言ってねえだろ!!」


『――その辺でいいですか?』


 画面の向こうから、文月の冷静な声が飛んできた。


「ああ、悪い。……お前のせいで怒られたじゃねえか」

「仁くんが意地悪だから……」

「何でだよ」

『では、本題に入りましょう』


 病室の空気が少し変わる。

 ライラもふざけるのをやめ、空いていた椅子へ腰かけた。


『まず、昨日実際に内部へ入った鉄華さん。分かる範囲で構いませんので、ご報告をお願いします』

「うっす」


 鉄華が腕を組む。


「ぶっちゃけると……今まで入ったダンジョンの中じゃ、一番ヤバかったっす」

「そこまでなのか」


 俺は少し眉を上げた。

 鉄華は頷く。


「昨日戦った奴ら。一匹ずつなら普通に勝てるっす。二・三匹来ても、まあ余裕はある。アタシ一人で好きにやっていいなら、あいつら相手に負ける気はしねえっす」

「……なら、問題なさそうだけどな」

「ただ、囲まれたら分かんねっすね」


 鉄華の表情が引き締まる。

 その一言で、思ったより厄介だということが分かった。


 鉄華は大雑把な性格だが、自身と相手の力量差を見誤ることは少ない。

 それに、謙遜や保険をかけるような発言をするタイプでもない。

 そんな彼女が、ただの道中の魔物に対して「囲まれたら分からない」と言ったということは、今回のダンジョンは相当な難度であるということだ。


「しかも、アタシらが進めたのなんてホント序盤っす。他にどんな魔物がいるかやボスの手がかりなんて、何も掴めなかったっす」

「なるほどな」

「かなり手強そうですねぇ……」


 顎を撫でつつ、ちらりと横を見る。

 ライラも先程までの笑顔を消し、黙って何かを考えているようだった。


「以上が、アタシら調査隊からの報告っす」

『ありがとうございました。こちらでも、概ね同じ見解です』


 文月が続ける。


『今回、通常のS級ダイバーを投入することはいたしません』

「ってことは?」

『少数精鋭で攻略に臨みます』


 スマホの画面に資料が表示される。


『予め他四名から調査報告を吸い上げた結果、戦力差のあるダイバーを混ぜた場合、上位者が護衛や救助へ回ることになると判断しました』


 昨日の鉄華がまさにそれだろう。

 一人なら戦えたが、四人を守りながらとなれば話は変わる。


『ですので、今回の攻略メンバーは三名』


 画面に名前が並ぶ。


『鷹峰さん』

「うっす!」

『神代さん』

「はーいっ!」

『そして、御影先生』

「へいよ」


 妥当な三人だ。


『朝比奈さんはいつも通り、外部待機でお願いします』

「ですよねぇ」


 朝比奈が少し残念そうに笑った。


『万が一、三名が撤退することになった場合、確実に治療できる人員を残しておく必要がありますので』

「分かってますぅ。大人しく待ってますねぇ」

「すまんな」

「先生なら無事に帰ってくるって信じてますからぁ……あ、もちろん皆さんもですよぉ?」


 一拍空いた気がする。

 気のせいということにしよう。


『では、この方針で――』

「ライラ」

「……なあに?」


 俺は文月の声を遮り、横を見た。


「さっきから静かだけど、何かあるのか?」

「あれ……バレちゃった?」


 ライラはペロッと舌を出す。

 そりゃ、会議始まった時から難しい顔してりゃあな。


「一個、提案していい?」

『はい、構いませんよ』


 ライラが顔を上げた。


「――配信しよう」


「「「『……は?』」」」


 俺、鉄華、朝比奈、画面越しの文月。

 全員ほぼ同じタイミングで素っ頓狂な声を上げた。

 ライラは立ち上がり、鉄華がさっき消したテレビを再びつける。


『――現在も周辺住民の不安は収まっていません』


 ニュース番組だ。

 現地――徳島の町が映っている。


『昨夜はほとんど眠れませんでしたね。子供も怖がっていて……魔物が外に出てくるんじゃないかって』

『うう……まものこわいよぉ……』


 インタビューを受けている女性とその子供が、不安そうに話していた。


「ネットも似たような感じ」


 ライラが自分のスマホを見せる。

 画面には大量の投稿が並ぶ。


『本当に大丈夫なの?』

『世界ランカーがやられたって。マジ日本終わりかも』

『次失敗したらどうなるんだよ』

『怖くて寝られない』


 そんな文字が延々と流れている。


「テレビが数字欲しさに煽ってる部分もあると思うよ。でもさ、この人たちが怖いって思ってるのは嘘じゃないでしょ?」


 ライラの声が少しだけ真面目になる。


「S級が全員ボロボロで帰ってきた……あ、鉄華ちゃんを責めてるわけじゃないよ」

「……分かってるっす」

「ボクが言いたいのは、一般の人が怖がるのは当然だってこと」


 ライラはテレビへ目を向けた。


「だから見せたいんだ。ボクたちが入って、しっかり勝ち切るところを」


 そして、いつもの笑顔を浮かべた。


「『DIVE-LIVE(ダイブライブ)』で、生配信しようよ」

「……蛇窪(へびくぼ)ダンジョンで使ったやつか」


 猪熊から吹っ掛けられた、指南役としての成果見せ試験。

 あの時は、意図せず攻略の模様を全世界に配信してしまい、猪熊たちの悪だくみを世間へ知らしめることに繋がった。


「言いたいことは分かったが……単純に攻略するだけじゃダメなのか? 早くボスを倒せば、それが安心に繋がるだろ?」

「それでも、市民の不安は払拭しきれないと思うんだ。またいつ発生するか分からない、今度こそ誰も敵わないかもしれない……ってね」


 ライラはそこで言葉を区切り、こちらに向かって人差し指を突き出す。


「だからボクたちがちょちょいっと、余裕満々にるーんるんで攻略する様子を見てもらって、皆に『これなら次回も大丈夫だ』って安心してもらいたい!」

「ちょちょいっとってな……」


 理屈は分かるが、そう上手くいくもんか?

 その話でいくと、俺達が苦戦しようものなら、逆に不安がらせることに繋がるような。

 という俺の思考を察したのか、ライラは満面の笑みを浮かべた。


「大丈夫。ボクがいるから」

「……頼もしいな」


 ふっと笑う。


『ちょ、ちょっと待ってください』


 文月が止める。


DIVE-LIVE(ダイブライブ)は、基本的に安全性がある程度確認されたダンジョンで使用するものです』

「うん」

『人気ダイバーのスター化や、ダイバー業界そのものへの関心を高める目的もあります。ですから、これまで配信対象になってきたのは、ある程度リスクを管理できる攻略です』


 文月が困ったように眉を寄せる。


『今回のような場所で、生配信を行った前例はありません。万が一があれば、それもすべて配信されるんですよ』

「分かってる」


 ライラはあっさり答えた。


「でも、前例がないからやらない、じゃボクは納得しないな」

『ですが……』

「必要なら、ボクたちが最初の一回になればいい」


 軽い口調だが、言っていることは真剣だった。


「ダイバーってさ、魔物を倒すだけが仕事じゃないとボクは思ってる」


 テレビの向こうでは、まだ不安そうな顔をした人たちが映っている。


「皆に安心を与えることだって、ボクらにできる救助だと思うんだ」


 ……なるほどな。

 俺には逆立ちしたって出てこない考えだ。

 戦って、倒して、助ける。

 俺にとってダイバーってのは、血生臭くてフタをしたいもんだった。

 だがライラにとっては、見られることも安心させることも、自分が笑うことだって、全部が使命なんだ。


『……私の一存では決めかねます』

「じゃあ、一番偉い人に投げるか」

『先生?』


 朝比奈からスマホを借り、そのまま久世会長へ電話をかける。

 数回の呼び出し音。


『はい。久世です』

「御影だ。朝っぱらから悪いな」

『いえいえ。どうしました?』

「ちょっと相談」


 今回の攻略を生配信したいという話を、一通り説明する。


『なるほど……』


 久世会長はしばらく考えて。


『いいですね。私は賛成です』


 穏やかな声でそう言った。


『不安というものは「心配ありません」と言葉で伝えただけでは、なかなか消えてくれませんから。皆さんが実際に戦っている姿を見てもらうのは、十分に意味はあると思います。それに……』


 久世会長はそこで言葉を区切り、そして先を続けた。


『皆さんなら、視聴者に希望を与えるダンジョン攻略ができるでしょう』

「……だってよ」


 俺はライラを見る。


「許可出たぞ」

「よっし!」


 ぱっと表情が明るくなる。


『分かりました。では、こちらで運営と調整します。配信用ライブスフィアの準備も進めます』

「お願い! うーっ、ワクワクしてきたーっ!」

「おいおい……目的忘れんなよ? 攻略が優先だからな?」

「分かってるって!」


 にぱーっと笑うライラの隣では、鉄華も拳を鳴らしている。


「アタシは配信なんて初めてっすけど……要するに、派手にぶっ飛ばしゃいいんすよね……?」

「おっ! さっすが分かってるね! 派手にぶっ飛ばしゃいいんすよ!」

「それなら得意中の得意っす!」


 なんだろう。

 攻略前から、もう疲れてきた。


 神代ライラに鷹峰鉄華。

 どっちも前に出るのが大好きなタイプ。

 ……これ、俺めちゃくちゃ貧乏くじなのでは。


「じゃ、決まりだね!」


 ライラが両手を叩いた。

 青い瞳を楽しそうに輝かせる。


「世界中のみんなを、安心させに行こっか!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。