閑話「戦場の味噌汁」
1860年、九州南部 前線。
補給が三日途絶えていた。
小隊長の村田は、兵士たちの顔を見ていた。十七人。疲れていた。眠れていなかった。腹が減っていた。
伝令が来た。荷物を持っていた。
「フィリア殿からです」
木箱だった。開けると、缶が並んでいた。ラベルに「即席味噌汁・乾燥型」とあった。
村田は缶を一つ手に取った。説明書きを読んだ。お湯を注ぐだけ、とあった。
火を起こした。水を沸かした。缶を開けた。乾燥した味噌と、小さな豆腐の欠片と、ねぎが入っていた。お湯を注いだ。
匂いがした。
十七人が、一斉に顔を上げた。
「……味噌汁だ」と誰かが言った。
誰も動かなかった。しばらく匂いを嗅いでいた。
村田が一口飲んだ。
旨かった。
母親が作る味噌汁とは違った。でも、同じ何かがあった。
「飲め」と村田は言った。
十七人が飲んだ。誰も喋らなかった。ただ飲んだ。
飲み終わった後、一人が言った。
「生きてる気がします」
「生きてるだろ?」と村田は言った。
「……そうですね」
次の日の朝、小隊は動いた。
フィリアの帳簿に、その夜こう記録されている。
前線向け即席味噌汁 第一便発送。
数量:三千缶。
価格:戦時特例・無償供与。
備考:佑には後で怒られる。




