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神の如き宇宙人は何もしない~ただ売るだけ~  作者: 苺一会
第四部「戦争・決着・そして締め」第八章「豪州合衆国との戦争」

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閑話「ただ、愛するものを失うのが怖いだけの男だ」

 捕虜はジョージ・ハミルトンといった。

 七十を超えていたが、目が死んでいなかった。イギリスの情報機関に四十年勤めた老人で、日本に送り込まれてから三年、一度も正体がばれなかった。最終的に内部告発で捕まったのだから、腕は本物だった。


 佑が直接会いに行ったのは、好奇心からだった。

 この男は、工作船について詳しい報告書を本国に送っていた。観察眼が鋭く、思い込みが少なく、「日本の技術は悪魔の力ではなく、長年の蓄積である」と正確に見抜いていた。そういう人間に、佑は会いたくなる。


 房の前に椅子を置いて、佑は座った。


「話しかけていいですか?」

「あなたが城佑ですか」

「そうです」


 ハミルトンはしばらく佑を見た。耳の形を見て、顔の造りを見て、目の奥を見た。


「思ったより、ふつうですね」

「よく言われます」


「悪魔に見えない」

「私は悪魔ではありません」


「神にも見えない」

「神でもありません」


 ハミルトンは壁にもたれた。


「では、何ですか」

「商人です」


「商人は、三百年間同じ顔をしていません」

「……私の商売は長い」


 ハミルトンは、しばらく黙っていた。

 それから、静かに言った。


「あなたは、神でも化け物でもない」


 佑は何も言わなかった。


「報告書を書きながら、ずっと考えていた。なぜこの男は、三百年も日本にいるのか。何が目的なのか。黄金か、権力か、支配か。どれも違う」

「……」

「答えは単純でした」


 ハミルトンは佑の目を見た。


「あなたはただ、愛するものを失うのが怖いだけの男だ」


 沈黙が落ちた。


「この国が好きなんでしょう。この国の人間が好きなんでしょう。だから、失いたくない。だから、守ろうとする。だから、三百年いる」

「……」

「違いますか」


 佑は、長い間、答えなかった。

 最終的に言った。


「……等価交換の商売です」

「嘘をついている」


「……」

「あなたは嘘が下手だ。三百年生きて、嘘が下手な生き物というのは、珍しい」


 佑は椅子から立ち上がった。


「あなたを本国に返します。条件は一つです」

「なんですか」

「その——」佑は少し間を置いた。「その見立てを、報告書に書かないでください」


 ハミルトンは、老いた目で佑を見た。

「……なぜですか」


「読まれると、困ります」


 ハミルトンは、初めて笑った。

「わかりました」


 佑が立ち去ろうとした時、ハミルトンが言った。

 

「城佑」

「何ですか」

「愛するものを失うのが怖いというのは——恥ずかしいことではない」


 佑は振り返らなかった。


 帰り道、帳簿を開こうとして、やめた。

 今日のことは、書けなかった。書く必要もないと思った。


 ハミルトンの言葉は、書かなくても、忘れなかった。


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