表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神の如き宇宙人は何もしない~ただ売るだけ~  作者: 苺一会
第四部「戦争・決着・そして締め」第八章「豪州合衆国との戦争」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
92/94

閑話「豆腐屋仙吉の子孫、宇宙技術を叱る」

 江戸の町外れ。

 朝霧が立ち込める中、トントンと小気味よい音が響くのは、頑固一徹で知られる豆腐屋の仙吉の子孫善兵衛の店である。

 そこに、およそ江戸の風景には似合わない、白衣を着た長耳の男が現れた。農業オタクのエルフ、モリスである。


「ここですか。我が主(佑)が『この世で最も美味い豆腐を作る男』と評した個体の作業場は」

 モリスは手にした携帯端末データパッドにせっせとメモを打ち込みながら、店にズカズカと入り込んだ。


「あぁ? なんだおめえ、見慣れねえツラだな。耳が随分尖ってやがるが、どこの回し者だ?」

 善兵衛が包丁を握ったまま、怪訝そうな顔でモリスを睨みつける。


「私はモリス。工作船の植物プラント最高責任者です。佑からあなたの豆腐を一口もらい、成分分析を行いました。結果、非常に遺憾な事実が判明したため、警告に参りました」

「あぁ? 遺憾だぁ?」


「はい。あなたの使う大豆は、遺伝子構造に無駄が多く、タンパク質含有量にムラがあります。そこで私は、遺伝子を最適化し、従来の1.4倍の収穫量と、完璧なアミノ酸バランスを実現した『ウルトラ大豆ver3』を開発しました」

 モリスは、不気味なほど丸々と太った、黄金色に輝く大豆の袋をドサリと置いた。


「これを使えば、誰が作っても水分含有率82.1%の、完璧な豆腐が計算通りに製造できます。さあ、これまでの非効率な大豆は捨てなさい」



 仙助は、目の前の「完璧な大豆」を一つ摘み、じっと見つめた。それから、フンと鼻で笑った。

「……おもしれえ。そこまで言うなら、一丁作ってやろうじゃねえか。おい、おめえ、そこに座って見てやがれ」


 それからの一時間、モリスは驚異的な光景を目にすることになった。

 善兵衛は、モリスの大豆を臼で挽き、茹で、布で絞って豆乳を作る。その一連の動作には、工作船の精密ロボットのような正確さはなかった。むしろ、その日の気温や、井戸水の冷たさに合わせて、お湯の温度を感覚で微調整しているように見えた。


「さあ、できたぞ。おめえの言う『完璧な豆』で作った豆腐だ。食ってみな」

 皿に出された豆腐は、モリスの計算通り、一ミリの歪みもない美しい立方体だった。


モリスはスプーン(持参したもの)で一口食べた。

「……素晴らしい。私の計算通り、雑味が一切なく、タンパク質の濃度が──」

「──ペッ、そんなもん、ただの固まった大豆の粉だ。豆腐じゃねえや」


 善兵衛は、自分がいつも作っている「地元の歪な大豆」の豆腐を、モリスの前に突きつけた。

「こっちを食ってみろ、耳長野郎」


 モリスは不満げにそれを口に運んだ。

「……!?」

 その瞬間、モリスのデータパッドの手が止まった。

 計算上は、成分にムラがあるはずだった。しかし、口の中で暴れるような濃厚な大豆の香りと、滑らかな舌触り、そして鼻に抜けるかすかな甘み。モリスの脳内シミュレーターが、予測不能のエラーを起こして赤く点滅した。


「な、なぜです!? 成分分析では、私の大豆の方が遥かに栄養価も旨味成分も高いはずです! なぜこちらの方が『美味い』と感じるのですか!?」



 善兵衛は、タバコに火をつけながら、ニヤリと笑った。

「馬鹿野郎。豆腐ってのはな、大豆の機嫌、その日の天気、井戸水の冷たさ、それを俺の指先が感じ取って、その日限りの『にがり』を打つんだよ。おめえの豆は生きてねえ。最初から答えが決まってる。そんな退屈なもん、江戸の人間は誰も喜ばねえよ」


「職人の……指先の感覚が、環境の揺らぎをリアルタイムで修正しているというのですか……? 計算ではなく、超並列型のバイオフィードバック……!」

 モリスは激しい衝撃に震え、猛烈な勢いでデータパッドにメモを打ち始めた。


「おもしろい……! 人間の不確定要素による最適化、これは工作船のAIにもないデータです! 仙吉、あなたの指先の神経データをスキャンさせてください! 毎朝通います!」

「うっとうしいねえ! 豆でも詰めて帰んな!」


 数日後、工作船に戻ったモリスが、嬉々として「職人の指先を再現したマニピュレーター」の開発に没頭している姿を見て、佑は「あの頑固親父の子孫、とうとう宇宙エルフを弟子にしちまったよ……」と遠い目をするのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ