閑話「工作船、ドック入り 1780年」
第三部、工作船内。
工作船が初めてドックに入ったのは、198年ぶりだった。
1582年に不時着して以来、工作船は一度も本格的なメンテナンスをしていなかった。各部の消耗が限界に近づいていた。アイリスが「そろそろ限界です」と言い始めて三年が経っていた。
佑がようやく決断した。
ドックは工作船自身が作った。海底の岩盤に固定した。二年かかった。
メンテナンスが始まった初日の夜、六人のエルフが甲板に集まった。
特に約束していたわけではなかった。自然に集まっていた。
地球の夜景が見えた。198年前に見た夜景と同じ場所だった。ただ、光の数が違った。都市の光が、198年前より多かった。
フィリアが言った。
「ここ、変わりましたね」
「変わった」とドワリンが言った。
「下水のせいです」とドワリンがすぐ言った。「都市が清潔になったから人口が増えた。人口が増えたから光が増えた」
「下水だけではありません」とシャリアが言った。「教育です」
「農業です」とモリスが言った。
「鉄道です」とライルが言った。
「発酵です」とフィリアが言った。
全員が同時に言った。一瞬、沈黙した。
誰かが笑い始めた。全員が笑った。
佑は六人を見ていた。
198年前、全員がここにいた。同じ甲板に立っていた。あの頃はまだ、地球に降りることへの緊張があった。今はなかった。
「佑」とアイリスが言った。
「なんですか?」
「この星、好きになりましたか」
「……最初から嫌いではなかったです」
「それは答えになっていません」
「和食があります」と佑は言った。「嫌いになれません」
フィリアが笑った。モリスが笑った。全員が笑った。
地球の夜景が、光り続けていた。




