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神に等しき宇宙人は何もしない~ただ売るだけ~  作者: 苺一会
第二章「最初の商売と、オタクたちの暴走開始」

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第7話 銅山交渉 佑の本業開始

 近江の銅山は、山の中腹にあった。


 麓の番小屋から出てきた老人が、佑を見て目を細めた。六十代か七十代か、陽に焼けた顔に深い皺が刻まれている。耳の長い来訪者を見ても、特に驚いた様子がなかった。


 驚かない人間は信頼できる、と佑は思った。根拠はないが。


「村田殿ですか」

「そうだが。信長様の紹介状は持ってるか」


 佑は書状を出した。村田がそれをじっくりと読んだ。


「銅を買うとか」

「はい。精錬すると金と銀が取れます。銅の中に混じっているものを私が取り出します。あなたには銅の値段を払います」


 村田が眉を動かした。「……それで儲かるのか、お主が」

「儲かります」


「銅から金銀が取れると言うのか」

「微量ですが取れます。私の技術なら効率よく分離できます。量を処理すれば十分な利益になります」


 村田はしばらく黙って、山を見た。長年この山と付き合ってきた人間の目で、坑道を見た。


「……信長様が保証するなら。よし、やってみろ」



 工作船に原料の銅を搬入したその夜、精錬設備が動き始めた。佑がやることはほとんどない。ただ設定して、待つだけだ。

 翌朝、フィリアが精錬炉の前に立っていた。


「見ていたんですか」

「面白そうだったので」とフィリアは言った。「……金と銀が出てきましたね」


「微量ですが」

「銅の中にこれだけ混じっているとは思いませんでした」フィリアが分離された金属を手に乗せて、光にかざした。「……不純物も興味深いです。この成分は」


「後にしてください」

「発酵に使えるかもしれません」


「銅をですか?まさか?」

 佑(内心):ぬか漬けにくぎは聞いた事がありますが……。


「菌の培地に微量金属を──」

「後にしてください」


 フィリアは少し残念そうな顔をしたが、黙った。

 精錬差益の計算をすると、黄金換算で四十七枚になった。佑は帳簿に書いた。初めて書く収入の欄だった。



 その夜、帳簿を眺めながら、佑はようやく食事をした。信長から受け取った米で炊いたご飯だった。

 白い。

 ちゃんと白い。


 異世界には白米がなかった。似たような穀物はあったが、この透明感のある白さではなかった。炊いた時の甘い湯気も、噛んだ時のもちっとした感触も、ぜんぶ違った。


 佑は一口食べて、少しの間、動かなかった。


「……美味しいですね」


 フィリアが向かいに座って、同じものを食べながら言った。

「……はい」


 現代のお米と比較したら、粒が小さくパサついて硬い。けど十年ぶりの、待ち望んでいたご飯だ。


「佑、泣いてますか」

「泣いていません」


「目が光っています」

「照明の問題です」


 フィリアは何も言わなかった。ただ自分のご飯を食べながら、「私も美味しいと思います」とだけ言った。


 佑は黙って食べた。


 食べ終わった後も、二人はしばらくそこにいた。

 フィリアが空になった茶碗を見ながら言った。

「麹菌も、時間をかけると変わります」


 佑は返事をしなかった。

 

「最初は何もない。ただの大豆と塩と水です。そこに菌を入れて、温度を保って、待つだけです。待つと、変わります。最初の頃とは全然違う何かになります」


「……それは味噌の話ですか」

「味噌の話です」とフィリアは言った。「でも他の話でもあります」


 佑はフィリアを見た。

 フィリアは茶碗を両手で包むようにして持ったまま、特に何かを言おうとしているふうでもなかった。ただ、言葉が出てきたから言った、という顔をしていた。

 

「……続けてください」と佑は言った。

 普段なら「後にしてください」と言う場面だった。フィリア自身もそれを知っていて、少し目を細めた。

「時間が長ければ長いほど、深くなります。旨味が出ます。最初に入れた菌は、仕込んだ人間が死んでも生きています。蔵が続く限り、ずっと生きています」


「……何百年で?も」

「何百年でも」とフィリアは静かに言った。「菌は、待つことを知っています」


 佑は窓の外を見た。夜の日本が、暗い中にあった。

 何百年、か。自分もそれだけここにいることになる。フィリアも、他のエルフたちも。

 

「……フィリア」

「はい」


「本物の味噌が出来たら、最初に私に食べさせてください」

 フィリアが少しだけ笑った。エルフの笑い方は人間より小さい。目の端が、わずかに動くだけだ。

 

「もちろんです。でも最初に食べるのは私です」

「……それはそうですね」


「佑は二番目です」

「分かりました」


 それ以上、二人は何も言わなかった。

 深夜の工作船は静かだった。白米の湯気はもう消えていた。


備考:フィリアが菌の話をした。止めなかった。旨かった、と思ったからだと思う。


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