第31話 豪州合衆国の外交接触
一八四〇年代。
豪州合衆国の外交官が日本に来た。
若い外交官だった。日本語を独学で習得してきた女性で、エリザベス・ホーンと名乗った。ヘイスティングスの曾孫だった。
「佑殿ですか」と彼女は日本語で言った。
「はい」
「日本語が上手いと聞いています」
「あなたも上手いですね」
「勉強しました。二百年遅かったですが」
佑は少し間を置いた。「……それはどういう意味ですか」
「二百年前に勉強し始めていれば、今頃もっとうまくやれたかもしれないという意味です」
「賢い言い方ですね」
「ありがとうございます」とホーンは言った。笑わなかった。ただ、どこか真剣な目をしていた。「率直に申し上げます。我が国は日本との戦争を望んでいません。ただし、議会の中に強硬派がいます。私にはその人たちを止める手段がない」
「なぜ私にそれを言うのですか」
「あなたが日本に何百年もいる存在だからです。戦争になれば、一番困るのはあなただと思いました」
佑はホーンを見た。
「困らないと思いますよ?」
「……日本以外と取引しないのでしたか」
「はい」
「では、日本が負けても困りませんか」
佑は少し間を置いた。
「……日本は負けません」
「なぜですか」
「二百五十年かけて、考える人間を作りました。兵器の性能の差より、それの方が戦争では大きい」
ホーンはしばらく佑を見た。
「……あなたを信じていいのか分かりません」
「信じなくていいです。確かめてみればいい」
備考:ホーンという女性が来た。
ヘイスティングスの曾孫らしい。
祖先よりずっと話が速い。
良い意味で。
戦争は来る。
私は何もしない。
日本人が、自分たちで答えを出す。
それが、最初からの方針だ。




