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神の如き宇宙人は何もしない~ただ売るだけ~  作者: 苺一会
第三部「外圧と葛藤・日本が試される」第七章「豪州の台頭・佑の葛藤」

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第29話 見捨てることの重さ——何もしない神の倫理

 一八〇〇年。


 佑は航路調査のため、南大西洋を工作船で通過していた。


 その時、センサーが拾った映像があった。

 奴隷船だった。

 アフリカの港から出港したばかりの、大型の輸送船。甲板の下に、数百人が詰め込まれている。センサーは熱源を拾う。オレンジ色の点が、無数に重なっていた。


 佑は映像を見た。

 止められる。工作船の能力でいえば、この船を一秒で停止させることができる。全員を解放することができる。


 ただし——日本以外と取引しない。直接介入しない。それが方針だった。

 佑はしばらく、映像を見ていた。


 フィリアが横に来た。

「……見えています」とフィリアは言った。


「見えています」

「どうしますか」

「……何もしません」


 フィリアは何も言わなかった。佑も何も言わなかった。

 船は通り過ぎた。



 その夜、佑は帳簿を開かなかった。

 開けなかった。

 翌朝、開いて、一行だけ書いた。


 昨日、見た。

 何もしなかった。

 正しい選択だったかどうか、分からない。

 分からないまま、続ける。

 奴隷船を見捨てた夜



 ライルが翌日、佑の部屋に来た。何も言わずに、お茶を置いた。


「……ありがとうございます」

「飲んでください」


 それだけだった。

 佑は後に、この日のことを「方針が正しいと信じる一方で、正しいという言葉が最も重く感じた日」と記録している。


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