閑話「ドワリン、下水を見て泣く 1730年」
第二部末、江戸。
ドワリンが泣いているのを、アイリスが見つけた。
場所は江戸の下水処理場だった。
新しい処理場だった。日本人の技師たちが設計して、日本人の職人が作った。ドワリンは設計に関わっていなかった。完成したと聞いて、一人で見に来た。
アイリスが来た時、ドワリンは処理場の端に立って、処理された水が川に流れ出る場所を見ていた。
泣いていた。
「ドワリン」
「……アイリスか」
「なぜ泣いているんですか」
「泣いていない」
「泣いています」
ドワリンが黙った。
「百年前、私が最初に江戸の地下に管を入れた」とドワリンは言った。「夜中に一人でやった。佑に申請を出したら却下されると思ったから、先にやった」
「覚えています」
「あの時、管は全部で二十本だった。私が一人で設計した。私が一人で材料を選んだ。私が一人で工作船の機材を使って施工した」
ドワリンが処理場を見た。
「今は違う」とドワリンは言った。「私が設計していない。私の材料ではない。私の機材ではない。日本人が全部やった」
「それが嫌なんですか?」とアイリスが聞いた。
「嫌じゃない」とドワリンは言った。「嫌じゃないから、泣いている」
アイリスは黙った。
「綺麗だ」とドワリンは言った。処理された水を見ながら言った。「私が作った時より、綺麗だ」
川に流れ出る水が、透明だった。




