閑話「国産機械が動いた日」
知らせを聞いたのは、フィリアからだった。
「佑、見に行った方がいい」
それだけ言った。フィリアが「見に行った方がいい」と言うことは、滅多にない。
佑が向かったのは、大阪の外れにある、小さな工場だった。
工場の前に、人が集まっていた。職人たちだ。皆、同じ方向を見ていた。佑は人垣の後ろに立った。耳が長いので、後ろからでも中が見えた。
工場の中に、蒸気機関があった。
佑が二十年前に売ったものと、よく似ていた。しかし、違った。細部が違う。継手の形が変わっている。圧力弁の位置が変わっている。配管の取り回しが、佑の設計よりも合理的だった。
これは、コピーではなかった。
佑の機械を分解して、理解して、作り直したものだった。
レバーが引かれた。
蒸気が入った。音がした。ゆっくりと、ピストンが動いた。
職人たちが、息をのんだ。
動いた。
佑が作ったものと同じように、いや、一部はより良く、機械が動いた。職人の手で、職人の知恵で、作られた機械が、動いた。
職人たちが一斉に声を上げた。抱き合う者もいた。泣いている者もいた。
佑は、声を上げなかった。
拍手もしなかった。
ただ、無言で見ていた。
胸の中に、何かが満ちる感覚があった。値段のつかない何かが。
これだ、と思った。
売り続けた理由は、これだった。自分の技術が、自分の手から離れて、人間たちの手の中で生きている。もう佑がいなくても、この機械は動く。この知恵は、人間の中に移った。
等価交換は、ここで完成した。
黄金ではなく。土地ではなく。
人間が自分で動かした機械が、その代金だった。
佑は人垣を離れた。誰にも気づかれなかった。
帳簿に、その日の日付だけを書いた。金額は書かなかった。書く必要がなかった。




