第27話 帳簿 一七五〇年 第二部総括
【1750年・第二部総括記録】
日本の現状
教育──
大学統合校が全国に27校。
今年の卒業生の中に、工学・医学・農学で
「エルフが教えたことを超えた」者が計14名。
シャリアは毎回嬉しそうにする。
農業──
尾張・近江・関東平野の収量が1582年比で3.2倍。
農村の識字率が81%。
モリスは「あとは彼らでできる」と言って
最近は北米の未開拓農地に行くことが多い。
インフラ──
江戸の下水道普及率91%。
ドワリンが「許せないのは残りの9%だ」と言っている。
二十五都市は第二期工事が始まった。
造船──
毛利家の造船技術が、アイリスの指導開始から
80年で独自改良段階に入った。
アイリスは「私の設計より良い船底形状を彼らが考えた」と言って
三日間、自分の区画から出てこなかった。
理由を聞いたら「悔しいので考えています」とのことだった。
鉄道──
東海道・山陽道・東北道の測量が完了。
ライルの設計図は第十九稿になった。
まだ誰も頼んでいないが、日本人の技師が
「この図面、見てもいいですか」と言いに来た。
ライルが初めて、自分から他者に設計図を広げた。
北米──
百年以上経過し都市も経済も農業も畜産も漁業も順風満帆な様相。
人口が日本本土の3分の1を超えた。
現地生まれの二世・三世が主力になりつつある。
先住民との共存は概ね良好。
一部の衝突は記録しているが、
日本の幕閣は「土地は余っている」を一貫して守っている。
信長の言葉が、死後80年以上経って生きている。
メキシコが攻めてきたのでメキシコシティーまで押し返し北側3分の1の領土を貰った。
場所的に徳川家の領土となり、代わりに徳川領の東端が少し西に後退してその部分は織田領になった。
グリーンランド~アラスカ~カムチャッカ半島~極東~東西シベリア──
好戦的な大名の収める場所だ。
百年以上経過し都市も経済も農業も畜産も漁業もある程度順風満帆とは言えるが、こちらは資源で儲けはしても寒さが圧倒的で農業は北米の足元にも及ばない。その分海に面した場所では漁業が盛んで儲かっている。それでもまだ重機の無い時代で資源の採掘も簡単では無い。
当然不満が燻ってくる。
確かに資源があった、将来有望かも知れない。でも今それを掘り出すには物凄い労力が必要だ。なんで我々はこんな場所に割り当てられたんだ? 我々も北米が良かった。佑に言っても何も解決しない、織田家に不満をぶつけても何も解決しない。
不満は外に向かった。
モンゴルを共同で攻めて、あっと言う間に征服し中央アジアも新疆ウイグルもチベットも征服してしまった。
まともに農業をして飢える事無く食べていける場所を得て。彼らはやっと満足して止まった。
彼らは自分達の全ての領土を共同で管理する事にした。その方が飢えにくいと考えたからだ。
だが彼らは自分達の都合でそれらの場所を征服してしまった。当然現地の人間は「ふざけるな」という感情になる。だから統治は人一番気をつけた。
現地の人間が絶対に飢える事の無いよう。
エルフたち──
全員が「先生」ではなく「同僚」として扱われ始めた。
フィリアは善右衛門の孫の孫と今も仕事をしている。
「代が変わっても菌は変わらない」と言っている。
ライルは今日も測量に行っている。
モリスは今日も土を握っている。
ドワリンは今日も地下にいる。
シャリアは今日も教えている。
アイリスは今日も港にいる。
私はまだ、ここにいる。
仙吉は、もういない。
孫の孫が今も同じ場所で豆腐を売っている。
先月、行ってきた。
「また来い、佑」と言われた。
声が似ていた。




