第26話 イギリス東インド会社 接触の試み
一七二〇年代、ロバート・ヘイスティングスが日本に来た。
東インド会社の重役だった。四十代の、目の鋭い男で、どんな相手とも商売の話ができる自信があった。
工作船に面会を申し込んできた時、佑は少し考えてから会うことにした。
「城佑殿ですか」
「はい」
「ヘイスティングスと申します。東インド会社の者です。率直に申し上げます。我々は日本と取引がしたい」
「日本との取引なら日本人と交渉してください。私は日本人ではありません」
「しかし、あなたが日本の……背景にある、と聞いています」
「背景ではありません。商人です」
ヘイスティングスは少し間を置いた。「日本は市場です。開けさえすれば我々が潤う」
「日本は既に開いています。ただし、条件があります」
「どんな条件ですか」
「日本人が嫌だと言ったら引いてください。それだけです」
「それは……」
「それだけです」
ヘイスティングスはしばらく佑を見た。
「あなたは何者ですか」
「商人です」
「それだけですか」
「それだけです」
帰り際に、ヘイスティングスは一つ言った。
「あなたには、売らないものがあるのですか」
佑は少し考えた。「あります」
「何ですか」
「日本人の自由です」
ヘイスティングスが少し黙った。それから頷いて、去った。
その夜の帳簿に、佑は書いた。
備考:ヘイスティングスという男が来た。
良い商人だと思う。
ただし目的が合わない。
この男の子孫が、
いつか日本の前に現れる気がする。
その時、日本人が自分で答えを出せるかどうかが問われる。
私はその時も、売るだけだ。




