第24話 シャリアの教育 最初の実り
一七〇〇年代に入った頃、変化が起きていた。
それはある朝、シャリアが報告に来た形で佑に伝わった。
「大学統合校の今年の卒業生の中に、私が教えたことを越えた学生が出ました」
佑はペンを止めた。「どういう意味ですか」
「私のカリキュラムを超えた解を、自力で出した学生が二名います」
「……どの分野で」
「農業水利の設計です。モリスが持ち込んだ問題を、私は解けなかった。その学生が解きました」
佑はシャリアを見た。シャリアの表情は穏やかだった。落ち込んでいるわけではない。むしろ少し明るい。
「嬉しいんですか」
「はい」とシャリアは言った。迷いなく。「これが教育の目的です。私を越える人間を作ること。越えられた意味がようやく分かりました」
その年、モリスが佑に言った。
「佑、尾張の農民が去年、私より良い肥料の配合を考えました」
「……知っています。記録に出ていました」
「教えたんですか、その人に」
「教えていません」とモリスは言った。「私の農法を見て、自分で考えたそうです」
佑は少し間を置いた。「それは……」
「良いことです」とモリスは言った。「私がいなくても農業が続く。それが目標でした」
【1703年・記録】
備考:日本人が自分で考え始めた。
シャリアが越えられた。嬉しそうだった。
モリスが越えられた。嬉しそうだった。
エルフが「先生」から「同僚」になりつつある。
これが良いことだというのは分かる。
ただし少し、寂しい気もする。
分からない感情だ。
帳簿に書く必要はないかもしれない。
ただ書かないと、忘れそうなので書いた。




