第6話 瀬川結 登場
二十代半ばの、商家の出と分かる着こなしの女性だった。帳面を脇に抱えて、佑を見た。驚いた様子はなかった。ただ、観察する目をしていた。
「瀬川結です。信長様の下で記録の仕事をしています」
「城佑です」
「存じています」と結は言った。「廊下でほとんど聞いていました」
「なぜ中に入らなかったんですか?」
「まず聞いてから判断する方が性質に合っているので」
佑(内心):効率が良い。
「質問があります」と結は言った。
「どうぞ」
「地図の残り──それを渡す条件として『面白いことをしてくれたら』と言いましたが」
「はい」
「あなたが言う『面白い』の定義は何ですか」
佑は少し考えた。
「私が予想しなかった動き方をすること、です」
「具体的には」
「今はまだ言えません。答えを先に渡したら、面白くなくなるので」
結が少し間を置いてから言った。「……それは商売ですか、それとも趣味ですか」
佑(内心):どちらだろう。分からない。
「情報の代価として」と佑は言った、「あなたが分析した結果を私にも共有してください。等価交換です」
「それは構いません」と結はすぐに答えた。
「……料金は」と佑は言いかけた。
「等価交換と言ったので、料金は不要です」
結が帳面を開きながら言った。
佑(内心):また値段をつけ損ねた。
その夜、工作船に戻った佑は帳簿の最初のページを開いた。
【1582年六月・初期記録】
収入:なし
支出:ドローン充電消費分
備考:信長との取引成立。銅の精錬から始める。
世界地図の残りは「面白いことをした時」に渡す予定。
瀬川結という人間がいる。
値段をつけるのを二度忘れた。
次は忘れない。
佑はペンを置いて、窓の外を見た。眼下に、夜の日本があった。
「……なんでやねんとは思いますが」
誰にともなく呟いた。
「まあ、やるしかないですね」




