閑話「信時、初めて工作船に乗る」
時期:1656年
工作船に乗りたいと言い出したのは、第八代織田家当主信時だった。
十二歳。信長の血が久しぶりに濃く出た子で、好奇心の制御ができない。瀬川研究所の五代目所長が三日間止めようとしたが、まったく無駄だった。
佑が「別に良いですよ」と言ったのは、面倒になったからだった。
信時が工作船に乗り込んだ。
十分後、青い顔で出口に向かって歩いていた。
「帰りたいです」
「早いですね」
「頭がおかしくなります」
量子コンピュータが動いていた。人工重力が切り替わっていた。ホログラムの地図が宙に浮いていた。百人のエルフがそれぞれ何かに熱中していた。
「……曾祖父の曾祖父は、こういうものと向き合っていたのか」と信時はしみじみ言った。
「信長殿も似た反応でした」
「嘘だ」
「本当です。ただ、信長殿はもう少し長く耐えました」
信時は少し黙った。「どのくらい長く」
「初日は一時間いました」
「……私は十分でした」
「最初はそんなものです」
信時は帰り際に振り返った。「また来ていいですか」
「構いません」
「次は二十分いられます」
「期待しています」
後に信時は日記に記す。「曾祖父の曾祖父は化け物である。しかし城佑も大概である。なぜあれだけの光景に、四百年間飽きないのか分からない」




