閑話「織田家の悩み」
時期:第二部(1620年代)
安土城の廊下で、第六代織田家当主信房と、その息子の信吉が話していた。
「先祖が偉大すぎる」と信房が言った。六十代になっていた。
「分かります」と信吉が返した。若い。まだ二十代だった。
「比較される」
「いつも」
「父上(信忠)は『真面目にやれ』と言った。それで真面目にやってきたが」
「しかし先祖の評判が」
「大きすぎる」
そこへ佑が通りかかった。
「何の話ですか」
二人が顔を見合わせた。
「……あなたは信長公を直接知っているか」と信吉が聞いた。
「知っています。長い付き合いでした」
「では聞かせてください。信長公は最初から、あれほどの人物でしたか」
佑は少し考えた。
「最初は違いました」と佑は言った。「桶狭間の前は、失敗が多かったです。商売で負けたこともあった。部下の心が読めなかった時期もあった。ただ」
「ただ?」
「負けた後の切り替えが、異様に速かった。それだけです」
信房が少し目を細めた。「……それだけですか」
「それだけです」
信吉が少し息を吐いた。「希望が出てきました」
「比較するより」と佑は言った。「信長殿本人が一番言いたかったことを、私は知っています。あなたたちに直接聞かせましょうか」
「何と言っていましたか」
「『もっと面白くなれ』と、最後の地図の余白に書いていました。誰に向けてかは分かりませんでした。でも今は、あなたたちに向けて書いたような気がしています」




