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神の如き宇宙人は何もしない~ただ売るだけ~  作者: 苺一会
第二部「エルフが暴走し、日本が育つ」 第五章「北米 最初の街と、信長の死」

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閑話「フィリアの弟子入り」

 善右衛門の孫の代になった味噌蔵に、フィリアは相変わらず通っていた。百年以上通い続けた蔵だ。三代目の当主、次郎兵衛は六十代の、発酵のことしか考えていないような老人だった。


 その次郎兵衛が、ある日フィリアに言った。

「フィリア殿、この冬の麹菌の管理を見てくれ」


 フィリアが見た。

 見て、止まった。


「……次郎兵衛さん、この管理の方法は」

「先月思いついた。どうだ」


「……私が教えた方法より、良いです」

 次郎兵衛が少し照れた。「そうか」


「この温度帯での菌の分布の考え方が──どこから思いついたんですか」

「お前さんが百年前に置いていった温度計を、ずっと使い続けてたらな。数字を見るうちに、菌がどこで一番元気かが分かってきた」


「百年分のデータで?」

「ああ」


 フィリアは少しの間、次郎兵衛を見た。

「弟子にしてもらえますか」とフィリアは言った。


 次郎兵衛が目を丸くした。「……え?」


「あなたの方が上手いので。学びたいです」

「わしが教えるのか、あんたに」


「はい」


 次郎兵衛はしばらく口をぱくぱくさせていた。それから「……まあ、ええか」と言った。「変な話だが、ええか」

 フィリアが工作船に戻ってきて、佑に報告した。


「弟子入りしてきました」

「聞きました。京都の味噌蔵に」


「立場が逆転しました」とフィリアは言った。穏やかに、しかし何かが弾けたような顔で。「最高です」

「最高ですか」


「菌は正直です」とフィリアは言った。「上手い人のところに集まります。次郎兵衛さんの蔵の菌は、今、私の管理した菌より活発です。それが答えです」

「あなたが百年かけて教えた成果が」と佑は言った。「あなたを超えた」


「そうです」

「悔しくないんですか」


 フィリアが少し首を傾けた。「悔しいという感情が、どこかにあります。ただそれより嬉しい気持ちの方が大きいです。なぜだと思いますか」

「……なぜですか?」


「私が教えたからです」とフィリアは言った。「私が教えたものが、私を超えた。それは私の一部が次郎兵衛さんの中に入って、彼がそれを超えたということです。誇らしいです」


 佑はフィリアを見た。

「……そうですね」と佑は言った。


「佑も同じことを感じる日が来ます」とフィリアは言った。「日本人があなたを超える日が」

 佑は少し間を置いた。「楽しみです」


「本当ですか」

「……本当です」と佑は言った。「たぶん」


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