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神の如き宇宙人は何もしない~ただ売るだけ~  作者: 苺一会
第二部「エルフが暴走し、日本が育つ」 第五章「北米 最初の街と、信長の死」

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閑話「瀬川澪 初登場」

 工作船に、見知らぬ女が来た。

 正確には、見知らぬではない。顔に見覚えがあった。目の形と、帳面を脇に抱える持ち方が、誰かに似ていた。

 

「瀬川澪と申します」

 三十代前半の女だった。母親と違うのは、廊下で盗み聞きしないで最初から入ってきたことだった。

 

「……結殿の」

「娘です。二代目所長を拝命しました」


 佑は少し間を置いた。

「結殿は」


「先月から床についています。長くはないと言っています」

「……そうですか」


 澪が帳面を開いた。母親と同じ動作だった。

 

「引き継ぎを受けました。佑殿との等価交換の取り決め、分析結果の共有、質問の持ち込み窓口。全部です」

「……全部、聞いていたんですね」


「物心ついた頃から聞かされていました」と澪は言った。「母が帰ってくると、必ず佑殿の話をしていました」


 佑は黙った。

 

「良い話ばかりではありません」と澪は続けた。「値段をつけ損ねた話も、蕨餅に負けた話も、全部聞きました」

「……それは」


「あと」と澪は言った。帳面から目を上げて、佑を見た。「銅の精錬差益の端数、黄金三枚分を毎回負けているのは把握しています。今後は正規の値段でお願いします」


 佑は止まった。

 等価交換の原則から言えば、澪は正しい。正しいのだが。

 

「……結殿は何も言いませんでした」

「母は甘かったんです」と澪は言った。ただし、少し笑いながら。「私は甘くありません」


 佑(内心):また値段をつけ損ねそうな予感がする。

 

「分かりました」と佑は言った。「正規の値段で」

「ありがとうございます」

 澪が帳面に何かを書いた。母親と同じ速さで書いた。

 

「最初の質問があります」

「どうぞ」


「信長様が亡くなりました。佑殿は今後、誰を窓口にするおつもりですか」


 佑は少し考えた。

 

「信忠殿に話を通します。ただ」

「ただ?」


「あなたのような人間が引き続きいてくれるなら、変わらず此処に来てください」


 澪が少し間を置いた。

 

「……それは値段がつきますか」

「つきません」と佑は言った。


「では等価交換ではありませんね」

「そうですね」


 澪がまた帳面に書いた。何を書いたのかは見えなかった。

 帰り際に、澪は一度だけ振り返った。

 

「母が言っていました」

「何と」


「佑殿に蕨餅を持っていく時、本当は毎回緊張していたと」


 佑は返事をしなかった。

 澪は振り返らずに出て行った。母親と違うのは、そこだけだった。


 その夜の帳簿に、佑は書いた。


【1632年・記録】

 瀬川澪、初来訪。

 銅の精錬差益の端数、正規の値段に戻すことになった。

 値段をつけ損ねた。また。

 結殿が蕨餅を持ってくる時、緊張していたとは知らなかった。

 知っていたら、もう少し早く払っていた。

 次は忘れない。


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