閑話「折り紙の鶴」
ある年の春、結が手のひらに乗るほどの小さなものを持ってきた。
白い紙を折って作った、鶴だった。
「誕生日のお祝いです」
「私の誕生日は——」
「あなたが地球に来た日を、私の中では誕生日にしています」
佑は鶴を受け取った。軽かった。当然だ、紙一枚だ。角が丁寧に折られていて、翼の部分がほんの少しだけ非対称になっていた。手で折ったからだ。
「原価は」
「紙一枚です」
「一枚。では——」
「等価交換はしません」
結は、笑った。
「ただの贈り物です。あなたが困る顔が見たかっただけです」
佑は困った顔をした。実際に困っていたからだ。
この鶴に、値段をどうつければいいのかわからなかった。紙一枚なら、ほぼゼロだ。しかし、結が時間をかけて折った。その時間には値段がある。ただ、それを勝手に計算して払うのも違う気がした。
「……どこに置けばいいですか」
「どこでも」
「捨てても?」
結が少し首を傾げた。
「捨てるんですか?」
「……捨てません」
「なぜですか」
「……わかりません」
結はまた笑った。今度は少し長く笑った。
「帳簿の横においてください」
「なぜですか?」
「帳簿は、あなたが一番よく見るものでしょう。よく見るものの横に置いておけば、忘れません」
佑は帳簿の横に鶴を置いた。
三年経っても、捨てられなかった。
結が死んだあと、佑は帳簿の整理をした。古い帳簿を棚の奥にしまう時、鶴も一緒にしまった。帳簿を出す時は、鶴も出した。何かを記録する時、横に鶴があった。
いつの頃からか、鶴が少し黄ばんでいた。
それでも、捨てられなかった。
捨てる理由が、見つからなかった。




