閑話「変わりましたか?」
結の髪に白いものが混じりはじめた頃、佑は何も言わなかった。
言う必要がないと思っていた。人間が年をとるのは当然のことで、佑がそれに言及することは、余計なお世話だと判断していた。結もそれについて話さなかった。二人の間で、老いは話題にならない不文律のようなものになっていた。
ある秋の夕方、結が工作船の窓際に立って、外を見ていた。
佑は帳簿を閉じて、黙って待った。結が何かを言おうとしている時、いつもこうやって待つ。
「佑さん」
「はい」
「私は変わりましたか」
佑は答えた。すぐに答えた。
「はい」
結が振り返った。何かを期待していたような、あるいは別の答えを半分望んでいたような、複雑な顔をしていた。
「……そうですか」
「最初に会った時、あなたは私の帳簿の誤字を三秒で見つけました。今は、誤字があってもしばらく見守ります」
結が少し笑った。
「それは、変わったというより、あなたに合わせているだけです」
「最初に会った時、あなたは私に値段の話しかしませんでした。今は、値段のつかない話をよく持ってきます」
「……」
「最初に会った時、あなたは蕨餅を武器として使っていました。今は、ただ持ってきます」
結は、窓の外を向いた。
「変わったのは、私だけですか」
佑は少しだけ考えた。
「変わっていない方も、いると思います」
「どちらが変わりましたか」
「……判断が難しいです」
結がまた笑った。今度は、静かな笑いだった。
「正直に言ってくれてよかった」
「『変わっていない』と言えばよかったですか」
「いいえ」
結は窓の外に目を向けたまま言った。
「私が変わったことに、あなたが気づいていることが——嬉しいんです。気づいていない方が、楽かもしれないけれど」
佑は、それに対する帳簿上の返答を持っていなかった。
だから、正直に言った。
「私は、あなたの全部の変化を覚えています。最初の誤字の指摘から、今日の白髪の数まで」
結が振り返った。
「白髪の数まで?」
「数えていました。等価交換の記録として」
「嘘をついていますね」
「……少し」
結は長い間、笑っていた。




