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神の如き宇宙人は何もしない~ただ売るだけ~  作者: 苺一会
第二部「エルフが暴走し、日本が育つ」 第五章「北米 最初の街と、信長の死」

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閑話「市場で見つけたもの 1625年」

 収穫期の市場は、いつもより人が多かった。

 佑はモリスと並んで市場を歩いていた。特に目的はなかった。南米の偵察映像を切ってから、佑は時々こうして地上を歩いた。工作船の中にいると、考えすぎた。


 モリスは市場に来るたびに土を触る。野菜を持ち上げて匂いを嗅ぐ。売り子に季節を聞く。毎回同じことをする。佑はそれが嫌いではなかった。

 川沿いに差し掛かった時、モリスが止まった。


「佑」

「なんですか」

「あれ」

 モリスが指差した先に、見慣れない機械があった。


 水車だった。ただし、普通の水車ではなかった。川に据えられた水車から、木製の軸が横に伸びていた。軸の先に、見慣れた形の機構が繋がっていた。

 脱穀機だった。


 水車が回るたびに、軸が動いた。軸が動くたびに、脱穀機の歯が回転した。川の流れが、そのまま脱穀の動力になっていた。

 農民が二人、機械の横に立っていた。特に驚いた様子もなく、刈り取った稲を機械に送り込んでいた。脱穀された籾が、桶に落ちていた。


 佑は止まった。

 脱穀機は佑が売った。水車はモリスが設計を教えた。しかし、この二つを繋ぐことは、誰も教えていない。


「……モリス」

「はい」


「これは」

「私が教えた水車です」とモリスは言った。声が少し変だった。「私が教えた脱穀機の原理です」


「繋げることは」

「教えていません」


 二人でしばらく機械を見ていた。水車が回り続けていた。籾が落ち続けていた。農民二人は佑たちに気づいていなかった。気づかれる必要もなかった。機械は動いていた。

 佑は農民の一人に声をかけた。


「これは誰が作りましたか」

「うちの倅ですよ」と農民は答えた。「去年の暮れに思いついたって言って、春から作り始めて」


「どこかで習いましたか」

「さあ、自分で考えたって言ってました。水車を見ながら、これで脱穀できないかと思ったって」


 佑は機械を見た。木の継ぎ目が丁寧に処理されていた。軸の角度が、動力の伝達に最適な角度になっていた。計算したのか、経験で出したのか。どちらにしても、正しかった。


「倅さんは今いますか」

「今日は別の畑です。何か?」


「いえ」と佑は言った。「よく出来ていると思っただけです」

 農民が笑った。「そうですか、それは嬉しい」


 佑とモリスは川沿いをもう少し歩いた。モリスは何も言わなかった。珍しかった。モリスは普段、農業の話になると止まらない。


「モリス」

「はい」


「どう思いますか?」

「……正直に言いますか」


「どうぞ」

「悔しいです」とモリスは言った。「私より良い角度です、あの軸の」


 佑は少し笑った。

 

「それは良かった」

「良くないです」とモリスは言った。ただし、声が嬉しそうだった。「全然良くないです」


 その日の帳簿に、佑は書いた。


【1625年・秋・記録】

 市場にて、水車連結型脱穀機を発見。

製作者:近郊農民の倅、名前不明。

水車の設計:モリスが教えた原理。

脱穀機の原理:佑が売った型を参考。

組み合わせ:誰も教えていない。

      モリスが「軸の角度が自分より良い」と言った。

備考:これが最高の商売だと、

   初めて思った。


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