閑話「1624年 偵察記録」
北米移民船の出港まで、あと三日だった。
佑は偵察ドローンの映像を一人で見ていた。
南米大陸の、名前も知らない村だった。
スペイン軍の隊列が村の中を進んでいた。静止画ではない。動いていた。今、起きていることだった。
人が引かれていた。縄を首にかけられて、列になって歩いていた。子供もいた。老人もいた。誰も叫んでいなかった。叫ぶ力が残っていないのか、叫んでも意味がないと知っているのか、映像では分からなかった。
佑はドローンの高度を上げた。
村全体が見えた。建物の半分が焼けていた。動いている人間の数が、動いていない人間の数より少なかった。
止められる、と佑は思った。
工作船から攻撃ドローンを出せば、三分で終わる。スペイン軍の規模は本能寺の夜と大差ない。あの夜と同じことをすれば、同じ結果になる。
ただし、この大陸と佑の間には取引がない。
佑は日本とだけ取引する、と決めていた。理由は単純だった。介入の範囲を決めなければ、どこまでも介入することになる。どこまでも介入すれば、人間は自分で考えることをやめる。自分で考えることをやめた人間に、佑が売れるものは何もない。
理由は分かっていた。
正しいとも思っていた。
ドローンの映像の中で、子供が転んだ。後ろの兵士に蹴られた。立ち上がった。また歩いた。
佑はドローンの電源を切った。
モニターの右端に、別のドローンの映像が小さく映っていた。北米大陸の東岸だった。十七年前にイギリス人が建てた定住地の煙が、今日も上がっていた。そちらでも、何かが起きているのかもしれなかった。
佑はそちらを見なかった。
ドローンの電源を切った。
映像が消えた。
しばらくそのままでいた。暗いモニターを見ていた。自分が今、何をしたのかは分かっていた。電源を切った。それだけだった。それだけのことが、何かを決定的に変えたような気がした。
変えていない、と佑は思った。
あの村は、佑が映像を見る前から同じ状態だった。佑が電源を切った後も、同じ状態が続く。佑は何もしていない。正確には、何もしないことを選んだ。
同じことだ、と思った。
思えなかった。
三日後、北米移民船が出港した。
甲板に立った移民たちが、日本の海岸線が見えなくなるまで振り返っていた。
佑は見送らなかった。
その夜の帳簿に、佑は何も書かなかった。
備考欄だけが空白だった。
翌朝、一行だけ書いた。
1624年・南米偵察記録:記録なし。




